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zoom RSS “ジェームズ・ボンド”ができるまで―「007/カジノ・ロワイヤル007 Casino Royale」

<<   作成日時 : 2015/10/21 22:42   >>

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懐かしいですね、この記事も(笑)。実は数年前にこの記事を書いたとき、“ショーン・コネリーを筆頭に歴代ボンド役者達は皆、それぞれの時代の空気を反映した“いい男”像であるわけです。”という部分が、一部の読者の方々から怒りを買ってしまったことがありました。なぜこのセンテンスに違和感や反発を感じるのか、当時の私にはその理由がさっぱり分かりませんでした。白状すると、今でも分かりません(笑)。しかしまあ、“好みのタイプ”というのは時代によっても異なりますが、もちろん個人の嗜好も人それぞれ皆異なるのだ、という事実を私が省略してしまったのがいけなかったのでしょうね。


ミッション…“ジェームズ・ボンドを誕生させよ”

「007/カジノ・ロワイヤル 007 Casino Royale」(2006年製作)
監督:マーティン・キャンベル
製作:バーバラ・ブロッコリ&マイケル・G・ウィルソン
原作:イアン・フレミング「007/カジノ・ロワイヤル」(東京創元社刊)
脚本:ニール・パーヴィス&ロバート・ウェイド&ポール・ハギス
撮影:フィル・メヒュー
プロダクションデザイン:ピーター・ラモント
衣装デザイン:リンディ・ヘミング
編集:スチュアート・ベアード
音楽:デヴィッド・アーノルド
テーマ曲:モンティ・ノーマン(ジェームズ・ボンドのテーマ)
主題歌演奏:クリス・コーネル
出演:ダニエル・クレイグ(ジェームズ・ボンド)
エヴァ・グリーン(ヴェスパー・リンド)
マッツ・ミケルセン(ル・シッフル)
ジュディ・デンチ(M)
ジェフリー・ライト(フェリックス・レイター)
ジャンカルロ・ジャンニーニ(マティス)他。

殺しのライセンス“00(ダブル・オー)”を取得するには、2件の殺人を遂行することが条件である。ジェームズ・ボンドは最後の昇格試験に見事合格し、無事ダブル・オーの称号を得た。007となって最初に与えられた任務は、世界中のテロリストの金庫番である、ル・シッフルという男の資金を絶つこと。マダガスカルで、爆弾を持ちながら逃げる男を追いつめ、バハマやマイアミでは航空機爆破テロの阻止に奔走しするボンド。しかし、生け捕りにするはずの組織の下っ端を殺害してしまったり、事件に無関係の人間を巻き込んだり、意気込みが空回りしてミスを連発してしまう。彼を007に昇格させた上司Mは、彼のミスによって英国の外交問題が致命的な打撃を受けることを憂う。ボンドはそんなMの叱責を逃れるため、彼女のプライベートな秘密を握るという、前代未聞の行動に出た。

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Mからの新たな情報を頼りに、彼はやがてル・シッフルの居場所を突き止める。ギャンブル好きなル・シッフルがモンテネグロの“カジノ・ロワイヤル”で大勝負に出る情報を得ると、ボンドは彼とポーカー対決をするために現地へ向かうのだった。今度こそ彼の資金源をゼロにするために。しかし彼のもとには、ギャンブルにおけるボンドの監視役として、財務省から美女ヴェスパー・リンドが派遣される。彼女の真意がわからないボンドは、彼女に対して反感を隠そうともしない。おかげで2人は顔を見ればいがみあう関係になってしまう。だが、ボンドを亡き者にしようとル・シッフルは罠を仕掛けてくる。共同戦線を張らざるをえなくなった2人は、危険を共にする中で次第に惹かれあっていくのだが。

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実はこの映画に関しては、映画館で鑑賞していました。やっぱりね、ボンドは大画面で観たいですから。初回限定版のDVDは特典映像をたっぷり収録した2枚組みで、イメージを刷新した新生ボンド・シリーズの魅力を充分に伝える内容となっています。

映画が公開される前も、また公開された後も、一般的な評価ではいろいろ言われた今作。マーティン・キャンベル監督の、新生ボンド映画に対する意欲と意気込みのほどが伺える内容でしたよ。今作で重要な要素となる“大勝負”“ポーカー”を象徴するように、トランプの柄が舞うオープニングから、新米ダブルオー要員ボンドの身体を張ったアクションが連続するシークェンスへの流れ。
このアクションシーンがあまりに荒唐無稽だという批判もよく聞きますが、そもそも007シリーズは“娯楽”作品です。ときに珍妙なメカが登場したり、人間の肉体の構造を無視したアクションを、ボンドがキザったらしく決めてみせたり。悪役はいつだって、世界征服のようなとてつもない野望を持っているし。まるで仮面ライダーのショッカー軍団を思い起こさせる設定ですよね(笑)。ファンも内心“そりゃないだろ”と思いながら、そんな荒唐無稽なアクションを大人のためのファンタジーとして楽しんでいるのです。原作者フレミングですら、“読者は、万能でハンサムで粋でワイルドなヒーローが、たった一人で軍隊や悪の組織に立ち向かう物語を楽しみにしてるんだ”と語っています。つまり、“荒唐無稽”であることを分かった上で、確信犯的に“今までにないおもしろい”ヒーロー物語を作ろうとしているわけですね。映画版のファンも、そんな製作側の意図は承知の上でしょう。
しかしながら、確かにシリーズを重ねていくうち、前作よりも面白くてスケールの大きなアクションをひねり出そうと、プロットからなにから現実離れに拍車がかかった傾向もありました。ボンドの古風なまでの持ち味はそのままに、作品自体がめまぐるしく進化する現実世界に追いつこうと、荒唐無稽なプロットとボンド像がかみ合わなくなるという一面も。
今作は、シリーズ心機一転にあたる作品です。ただ単にボンド役者が代替わりするというだけではなく、上滑りしていたボンド映画のムードを、プロットに即したタイトなアクション・ヒーロー映画に戻すという意味合いも持っているのですね。現在の映画産業では、たとえ娯楽作品であっても、現実に起こるテロや戦争の脅威を無視して製作するわけにはいかないというジレンマがあります。それは長い歴史を誇るこのシリーズでも同様。今の時代に、世界征服を狙うマンガのような悪人設定はそぐわないでしょう。必然的にボンドも、テロ組織撲滅というしごく真っ当な任務のために飛び回ることになります。このシリーズの大いなる目標は、それでなくとも暗い現実を思い起こさせるストーリー設定を、いかにボンド映画的カタルシスに昇華していくか、という点に尽きるでしょう。

冒頭のアクションシーンひとつをとっても、ボンドはとにかく裸一貫、己の肉体のみを駆使してかなりリアルに闘っています。エンターテイメントにある程度の “リアル”さが要求される、今の映画の気風に合っているのではないでしょうかね。個人的には、まだ未熟なボンドの必死な雰囲気と、若さがギラギラする彼の、汗の匂いまで漂ってきそうなアクションにはかなり興奮させられたクチです。クレイグさんの演ずる新米ボンドの佇まいも、いさぎよく肉弾戦に飛び込んでいく無骨なアクションシーンも悪くない。ですが、ファンが臨む“007的お約束ド派手アクションシーン”と、製作陣が目論む“今の時代の空気に乗った 007的アクションシーン”に若干隔たりがあるのかなとも感じました。この辺に違和感を感じた方は、おそらく最後までその違和感に引っ張られたままだったでしょうね。
まあそもそも007シリーズは、他のアクション映画の影響を受けやすいという伝統があります。旧作でも、その当時流行っていたカンフー・アクションを節操なく取り入れたりして(笑)、割とミーハーな一面も見せてくれていましたし。今作では、「マトリックス」など、CGなどの発達で格段にレベルアップした多種多様なアクション映画群の影響を受けているともいえますね。

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面白いアクション映画には、存在感のある悪役が欠かせませんが、今作のル・シッフルはどうでしょう。マッツ・ミケルセンはヴィゴ・モーテンセンに似た雰囲気のある役者さんですが、ボンド映画的悪役の系譜から逸れることなく、ル・シッフルの持つ爬虫類的な陰湿さをかなりリアルに表現できていたと思います。ちまたで話題になった密室でのボンドの拷問シーンでは、クレイグさんの演技の資質とミケルセンのそれが、実は似た方向性であることが伺えますね。元々クレイグさんは、他の映画で犯罪者に扮することが多かったわけで、彼の陰影深いイメージがミケルセンの翳りとシンクロし、あのシーンを異様なテンションに引き上げていたと思われるのです。

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優秀で度胸もあるが、自信過剰な一面も持つボンド。己の能力を過信するあまり、強引な単独行動に走ってはMに嫌われてしまうほど。おまけにハンサムなのに、タキシードもいまひとつきちんと着こなせていない…。
見慣れた従来のボンド像から、経験とそれゆえの老獪さとユーモアを差し引けば、おそらくこんな若造ボンドができあがるのではないでしょうか。いかなスーパー・スパイ、ボンドであっても、若くて未熟な頃もあったはず。それを想像すると、あの初代ボンド、ショーン・コネリーを30代にして新米でいっぱいいっぱいの状態にすれば、案外今回クレイグさんの演じた雰囲気に近くなるのでは。

今作では、ボンドがどんな経験を積んで“007”となっていったのかを物語ることに、映画の焦点が置かれています。彼がなぜ女ったらしになったのか。彼が基本的に己を恋愛に埋没させないわけはなぜか。007作品のエピソード1たるこの作品で、それが明らかにされていきます。本筋であるサスペンスの合間に、本気になってしまった女と自身の使命との間で板ばさみにあった悲劇が効果的に挿入され、従来のシリーズにはなかった人間関係の生々しさを感じさせますね。恋愛には案外不慣れであったボンドの人間的な側面とスパイの非情な世界との間の軋轢が、彼を成長させたと同時により冷酷にもしたのだと容易に読み取れますね。クレイグさんは、今回ボンドを演じるに当たって、ボンドの残忍な人殺しの一面を強調したかったと語っていますが、その目論見は成功していると思いますよ。彼の酷薄そうな瞳がそれを物語っています。初代ボンドだって、よく考えれば女性に対してかなり非情な顔を見せることがありましたしね。クレイグさんによるボンド像の解釈は間違っていないでしょう。ヴェスパー・リンド役のエヴァ・グリーンも、ほどよくセクシーでほどよく品があり、翳りを帯びたクレイグさんとの悲恋によくマッチしていたと思います。
新ボンドに抜擢された時点で、彼が旧シリーズのファン達から根拠のない大バッシングを受けていたことは記憶に新しいところですが、この作品の成功で“ダニエル・クレイグはボンドに非ず”という酷評を跳ね返すことはできたでしょう。ボンドがボンドになる過程をリアルに描こうとすれば、旧シリーズに親しんだファンの脳裏からは、ボンドというヒーローのファンタジーが消されてしまうでしょう。製作陣は、シリーズの舵取りを、旧来のファンの期待をあえて裏切る方向に持っていこうとしているようにも思えます。ボンド役に、オフビートな雰囲気と演技を持ち味にするクレイグさんを据えたのも、シリーズを一度白紙に戻し、時代の要請するボンド映画を新たに構築しようとする覚悟が伺えますね。

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確かに、ショーン・コネリーを筆頭に歴代ボンド役者達は皆、それぞれの時代の空気を反映した“いい男”像であるわけです。ロジャー・ムーアが演じたボンドは、粋でお洒落でお金持ちのおじさまのような雰囲気がありました。それはバブリーな80年代が理想としたいい男。そのバブルがはじけた頃にボンドとなったティモシー・ダルトンは、非常にストイックで生真面目なイメージを持っていましたね。バブルの反動が、そんないい男を求めていたのでしょう。そんな空気がひと段落した頃登場したピアース・ブロスナンは、ムーア=ボンド的ユーモアと、ダルトン=ボンド的清潔感、そして初代ボンドにも負けない切れのあるアクションをスマートに演出してみせました。ファッション・モデルのようだと揶揄されながらも、シリーズが彼のおかげで息を吹き返したのは、時代が“パーフェクトないい男”を欲していたから。つまり、どこか屈折した複雑な表情を持つクレイグさんは、先行きの不透明な今を象徴する存在だと言えるかもしれません。しかしながら彼はまだ若いですし、これから先、ボンドをどのように進化させていくかも全くの未知数です。問題は、この後のシリーズのベクトルをどの方向に向けるのかということですね。次作にもクレイグさんが登板しますが、本当の正念場、彼の真価が問われるのは次作だという気がしてなりません。


映画のラスト近くになって初めて、あの耳に馴染んだ007のテーマソングが聞こえてきます。これで、ボンドが完全に“007”に変貌したことが暗示されるのです。

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