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zoom RSS 未来へ続く道―「ザ・ロード The Road」

<<   作成日時 : 2014/11/22 23:50   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 8 / トラックバック 0 / コメント 0

パリに住んでいた年の冬は本当に寒かった。しかし、急に冷え込んできたパリの映画館でひっそりと公開された映画「ザ・ロード(The Road / La Route)」(2009年)は、寒さに震える館長の心を更に凍りつかせてくれました(笑)。劇場公開されてすぐ観に行っていたのですが、そのときにはまだ日本での公開のめどが立っておらず、ブログの記事にストーリーと感想の詳細を書くのを避けておりました。

パリで観たときには、同作に対しては賛否両論のレビューが拮抗していたと記憶しております。私自身も初見時では、原作小説自体が日本の時代劇「子連れ狼」の影響を受けていたこともあり、映像全体から輪廻転生的なニュアンスを強く感じていました。ために、今作が描くところの父と子の物語像は、欧米の観客には違和感もあったのではないかと考えています。

その後日本でも、当初の予定より早いペースで今作の劇場公開が実現しました。名優ヴィゴ・モーテンセン渾身の演技は本当に美しく、今のところまだハリウッドに毒されていない子役コディ・スミット・マクフィー君の透明感溢れる佇まいに対し、世紀末を迎えた地球と人心の暴力的な荒廃が残酷なまでに対比されたディストピア作品。静謐と破壊が奇妙な調和を保ちながら、全てが無に帰する直前に一筋だけ物語に差し込んできた光をどのように解釈するかで、作品の受け取り方も変わってくるのでしょうね。国内公開されてめでたい限りだと当時は喜んでいましたが、ええ、肝心の本編の方は、“めでたい”という感覚からはおよそ一万光年ほど離れていましたよねえ…(涙)。

ここで、過去に書いた初見時のレビューを再掲載しておきます。とはいうものの、当館は基本的にネタバレ天国でありますので、それが許せないという方はどうか聞き流してやってくださいね。

〜〜〜〜〜〜以下、過去記事の再掲載〜〜〜〜〜〜〜〜

本日映画館にてヴィゴ・モーテンセン氏主演の映画「ザ・ロード(La Route)」を観てまいりました。うーん。後もう一回ぐらい観直したい気持ちもある一方で、もう一度観る気力があるのかと問われれば、『自信ない…』と答えるしかないような気もします(苦笑)。

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なんらかの要因で、地球上のあらゆる動植物が死滅した未来世界。常に暴風雨に晒され地上は凍てつく寒さだ。ついに食べ物らしい食べ物がなくなってしまい、生き残った人類は、飢えを癒すために同じ人間を襲って喰らう餓鬼と成り果てていた。太古の地球上で繰り広げられていたであろう、生きるか死ぬかのサヴァイヴァルが、未来で繰り返されることになったのである。
飢えのためやせ細り、髭ぼうぼうで薄汚れた1人の男は、同じくやせ細り、やつれた少年を守りながら旅を続けている。彼らは親子で、カニヴァリズムが横行する危険な住処を捨て、一縷の希望を託して南の地を目指しているのである。男は、この絶望的な世界の中で生まれ育った息子を神からの贈り物と信じ、彼を守るためなら人を殺めることも厭わなかった。外には、徒党を組んで人狩りを行う餓鬼集団が跋扈しているためだ。何度も危機を乗り越えながら旅を続ける親子は、たまたま見つけた地下シェルターでたくさんの保存食を発見し、つかの間の休息を得る。
しかし、犬を連れた人の集団の気配を察知した男は、持てるだけの品物を持って、再び息子を伴って旅を開始する。実はしばらく前から、つかず離れず密かに自分達の後をつけてくる人間がいることを感じ取っていたのだ。それに、ここに留まっていても、やがては食料が尽きるのを待つばかりでもある。彼がかたくなに目指す南の地。そこが本当に安息の地であるのかどうかは、男にももはや判然としない。しかし、この荒んだ世界にあってもなお善なる心を失わない息子を守るためには、少しでも暖かい南を目指すしかないのだ。
息子を産んだ妻は、迫り来る飢えと死の恐怖に耐え切れず、とうの昔に自殺してしまっていた。男にとっては、もはや生きるよすがは自分の息子しかありえない。彼らはやがて海岸線に出た。海にも、生きとし生けるものはいない…。

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日本では現在公開中の作品なので、これ以上の詳細は省きますね。

生命が死滅した、荒廃する一方の世界。2人の親子が歩く“道”にも、その周囲の、かつては人が人らしい生活を営んでいた土地にも、寂寞とした情景が続くばかり。そこにあるのは、飢えによる死と、人が同じ人に喰い殺される恐怖のみ。そんな世界に、もしあなたが放り込まれたとしたら、一体あなたはどうすれば良いのか。

この作品(原作は「ノーカントリー No Country For Old Men」でも有名なコーマック・マッカーシー Cormac McCarthy)の突きつけるテーマとは、ずばりそれですね。人が人らしく生きるにはどうすればいいのか、そもそも、人らしく生きるとはどういうことであるのか。善とは何か、悪とは何か。そんな、どのように問いかけられても答えることは難しい、ある意味人間の存在意義というものについて、今作は繰り返し観客に問いかけてきます。

危険は常に身近にあるものの、いかにも映画的な大事件は一切起こらないシンプルなストーリー展開、しかし画面上では、目を背けたくなるほど残酷で絶望的な光景が執拗に繰り返される中で、観客は劇中の男同様、暗澹たる気持ちに苛まれていきます。時折フラッシュバックで挿入されるのは、何もかもが灰色の希望のない旅の途上、男が夢に見る幸せだった頃の妻との思い出のみ。その光景だけは、鮮やかで美しい色合いで表現されるのがやるせないです。

男が命がけで守ろうとする少年の澄んだ瞳の色と、最後の最後に提示されるわずかな希望。結局この物語は、私たちが本来見失ってはならない家族の絆というものに、静かに収束していくことがわかります。“人が人として生きる全ての礎は、やはり家族の絆に他ならない”という、マッカーシーの原作小説で明示されていたテーマが、この映画でもきちんと踏襲されていました。まあそこら辺が、いかにもアメリカ的な思想の流れだとは感じましたが、普遍性を持つことは確か。

マッカーシーは、例の日本製時代劇「子連れ狼」をモチーフとして用い、そこに終末世界の圧倒的な絶望と、極限状態で善と悪に引き裂かれる人間の業、次の世代に一縷の希望を託そうとする魂を描き切りました。映画版も、散文詩体で書かれたその原作の雰囲気をかなり忠実に再現出来ていたと思います。ただ、安っぽいジェットコースター・ムービーに慣れている人の中には、今作を“単調だ”と感じる向きもあるやもしれませんね。

実は私自身も、子供を守るためなら修羅にもなる腹をくくった男と、それを哀しげに見つめる息子の関係性が微妙に逆転してゆく様、あるいは、妻が夫と子供を捨てて先に逝ってしまった心境といった描写に、もう少し突っ込んだ説明が必要だとは感じました。でなければ、男が最愛の妻の写真と結婚指輪を捨ててまで、また、人間の尊厳をギリギリのところで守るためにあえて鬼になる決意を固めたその悲壮感に、今ひとつの説得力が伴わないからですね。ですから、初見した限りにおいては、本作は10点満点中7点ぐらいの評価だと考えました。今作が傑作になるためには、背景描写に少しの具体性が欲しかったですね。それから、欲を申せば、ラストに至る伏線をもう少しわかりやすく。でないと、あれを“予定調和”と勘違いする人も出てきそうですもの。

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ヴィゴは相変わらずの素晴らしい演技。極限下のお話ですので、やつれ果てて泥まみれのルックスで熱演。息子に向けるまなざしには言いようのない哀しみと愛情を精一杯にじませて、それだけで泣かせてくれます(涙)。
息子役のコーディー君も素晴らしいの一言。劇中、親子が出会う90歳の老人(名優ロバート・デュヴァルが友情出演ですが強烈な印象!)が、いみじくも彼を“天使”と表現したとおり、地獄の中で生まれた天使そのもの。暗い瞳の奥に透き通った光を秘め、無垢なだけではない、ある領域に到達した悟りのようなものすら感じさせる表情がなんとも言いようがありません。理性を失った人間の悪行を目の当たりにして、あれだけの絶望に遭遇して、彼がそれでも立ち上がって歩き出すラストには涙腺が決壊しそうでございました…。

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(UGC内で無料配布している「UGC illimite」に掲載された「La Route」関連記事のスキャンです)

最近涙もろくなっている館長は、劇中何度か涙がちょもれた(笑)瞬間がありましたが、一緒に観ていた父豆に言わせると、“ちょっと説明不足で物語に入り込めなかった”とのこと。そもそも、どうして生命が死滅したのか、人類が滅亡の危機に瀕しているのは、核戦争があったからなのか、それとも大災害があって地表の気候が一転したせいなのか、劇中に何の説明もなかったために、それが却って気になってしまったそうなんですね。…うーん、そうかそうか(微笑)。……よし、わかった。キミだけ今日は晩御飯抜きな。

〜〜〜〜〜〜以上、過去記事の再掲載終わり〜〜〜〜〜〜

ザ・ロード
早川書房
コーマック・マッカーシー

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小説というよりも、むしろ“叙事詩”。この原作でも、実は物語の詳しい背景は説明されていません。それでも私たちは、ひたすら陰鬱で絶望的なこの作品世界に、惹き込まれずにはいられないのです。ストーリーの根底に流れ続ける親と子の間の純粋な情愛に、胸を締め付けられるような哀しみと共に安堵を覚えてしまうからでしょう。

それはきっと私たちが、繁栄を謳歌する現代社会のすぐそばに、得体の知れない不協和音、あるいは人類滅亡への危機感を見出しているせいだと思うのです。人類は、誕生してからこのかた、傲慢極まる方法で地球を征服し、他生物たちの無数の犠牲の上に君臨し続けました。その代償を支払わねばならない時は、いつかきっとやって来ます。この母なる大地の上に甚大な犠牲者の骸が折り重なるとき、私たち人類には一体何が残されるのか。この作品は、その究極の問いかけへの唯一の答えを示しているような気もします。

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And you, my father, there on the sad height,
Curse, bless, me now with your fierce tears, I pray.
Do not go gentle into that good night.
Rage, rage against the dying of the light.


‘Do Not Go Gentle into that Good Night’ by Dylan Thomas (1914 - 1953)

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「ザ・ロード The Road」(2009年)
監督:ジョン・ヒルコート John Hillcoat
製作:ニック・ウェクスラー他。
製作総指揮:トッド・ワグナー他。
原作:コーマック・マッカーシー Cormac McCarthy『ザ・ロード The Road』(早川書房刊)
脚本:ジョー・ペンホール
撮影:ハビエル・アギーレサロベ
プロダクションデザイン:クリス・ケネディ
衣装デザイン:マーゴット・ウィルソン
編集:ジョン・グレゴリー
音楽:ニック・ケイヴ&ウォーレン・エリス
出演:ヴィゴ・モーテンセン(男)
コディ・スミット=マクフィー(少年)
ロバート・デュヴァル(老人)
ガイ・ピアース(謎の男)
シャーリーズ・セロン(女)他。

……父は最後の最後まで“すまない”と僕に謝り続けていた。僕は、急速に体温を失っていく父の身体を少しでも温めようと、父に抱きついてその夜は眠りに就いた。翌朝、父はぽっかりと口を開けたままの状態で、冷たい躯になっていた。その顔を覗き込む僕。まるで今にも“すまない”と言い出しそうな気がしたからだ。しかし父はその後二度と目を覚まさず、身体は硬くなっていった。父の遺体が骨と皮だけのミイラのようになっても、僕はその傍から離れる勇気が出ず、いつまでもグズグズと泣いていた。数日夜を明かしたことだろう。周囲に例の他の人間の気配を敏感に察知した僕は、“彼”がすぐ傍までやって来ていることを確信した。

初めて目の当たりにする彼。背格好は父と同じぐらいか。彼は、自分もまた2人の子を持つ父親だと僕に語りかけてきた。彼の妻も健在で子供と一緒に旅を続けているのだと。いつかどこかで、その後姿だけ視界の隅に捉えた2人の子供達。彼ら家族は1人も欠けることなく、一緒に旅をしている。僕と父の存在を早くから知っていたけど、僕らに姿を見られないように少し後ろからついてきていたのだそうだ。それならそうと、あの時に声をかけてくれればよかったのに!…でも、彼は、そうすれば僕の父が警戒し、最悪の事態を招いたかもしれないと答えた。最悪の事態?そう、僕の父と彼が戦い合って、双方共に自滅する結末だ。父はあの町で弓矢を持った男に射られ、そいつと戦った挙句重傷を負ってしまった。この状態で他の連中と戦うのは極力避けるべきなのだ。

彼は、自分の家族と一緒に旅をしないかと僕に言った。ここで父の躯を前に泣いていても、もう父は戻ってこないし、他の人喰いたちに捕まるかもしれない。彼はライフルを持っているし、僕らが以前通った町の家で手に入れた食料の残りも抜かりなく持ってきていたから、当分ひもじい思いはしなくていいだろうから。僕は彼に、他の人間を襲って喰うかと問うた。

これは、人が生きる意味を考えた時、僕にとっては最も重要なことだった。たとえ雑草ひとつ生えなくなったこの地球でも、人間しか他に食うものが無くなっていても、“他の人間を殺して喰うこと”は罪であり、生きるためという大義名分によっても、赦される行いではない。人が人であるための最後の尊厳なのだ。

父よ、あなたと僕は、人間が同じ人間を殺して貪り喰うところを見た。何度も何度も。極限状態に置かれた人間はすべからく、生き残るための本能を最優先する。自分以外の人間を抹殺しようと無意識のうちに行動する。そうしなければ自分の命が危ういからだ。あなたも僕を守るためだけに何人もの人間を殺してきた。しかし僕は、他の人間をたった一度でも“家畜にした”人間は、もう人間ではなくなると思っている。なるほど外側は確かに人間の形をしているが、中身は全く別の怪物に変わってしまう。生きるために他の人間の命を奪った時点で、その人間の魂は死んでこの世界から消えてしまうのだ。…父よ、あなたもきっと、その最後の一線を越えることについて何度も逡巡し、人間として生きることの明確な定義を求めて葛藤し、僕の命と己の人間としての尊厳を天秤にかけ続けたに違いない。

父よ、僕は人間として生きたい。“あなたは何故生きるのか?”と問われれば、それは、“人間として生を全うしたいからだ”と答える。そして、これからも、僕は人間として生きる。

彼は喰う為に人を殺したことはないと明言した。誰かを殺して、その持ち物や食べ物を無理矢理奪ったこともない。ライフルはあくまでも、家族の安全を守るためのものだ、と。僕は彼を信じた。何故か?なぜならば、彼の手の指は既に何本かなくなっていたからだ。全ての手段が尽きたとき、彼は自分の指を切り落として子供達に食べさせていた。父よ、僕は彼らと一緒に旅を続ける。あなたが目指した南の地へ行く。あなたの罪を神が許してくれるように、僕はこれから毎日懸命に祈る。だからどうか父よ、もう安らかに眠っていてくれ。


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