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zoom RSS 「ジム・ヘンソンのストーリーテラー The Storyteller」Part1―ジム・ヘンソン監督

<<   作成日時 : 2014/07/16 17:55   >>

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“人々が古い思い出話をする時、また今を語らう時、未来に思いを巡らす時、暖炉の傍らを好むもの。昔話の語り手と同じように…”

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「ジム・ヘンソンのストーリーテラーVol.1、Vol.2 The Storyteller」(1987年製作)
監督:スティーヴ・バロン&ジム・ヘンソン&チャールズ・スターリッジ&ジョン・アミエル&ポール・ウェイランド&ピーター・スミス
製作:ジム・ヘンソン&ダンカン・ケンワーシー
脚本:アンソニー・ミンゲラ
撮影:ジョン・フェナー
音楽:レイチェル・ポートマン
出演:ジョン・ハート(語り部)
ブライアン・ヘンソン(語り部の犬)他。

第1話「ハリネズミのハンス」(ドイツ民話より)
監督:スティーヴ・バロン
ゲスト出演:ジェイソン・カーター(ハンス)
アビゲイル・クラッテンデン(チェリー・パイ姫)
デイヴィッド・スウィフト(王)

(物語)
さてと。暗くて寒い冬を思い描いてくれ。ある農夫の夫婦が冷たいベッドで凍えておった。だが妻は足を亭主の頭の方に突き出して、犬を抱いて寝てたんだ。なんでかって?そうすれば妊娠するかもしれないと考えたからだよ。彼女は子供が欲しくて欲しくてたまらなかったのに、一向に子宝に恵まれなかった。そして思いつめた挙句、ハリネズミのような醜い子供でも構わないから欲しいと願ってしまったんだよ。人というものは、思いや願いが強すぎると理性を失う。まさしく彼女もそうだった。怪しげなまじないのせいか、彼女はやがて懐妊したが、村人はまじないの呪いを恐れた。生まれた赤ん坊は、驚くなかれ、とがった鼻に全身ハリのような毛に覆われた、ハリネズミそっくりの姿をしていたんだ。
しかし赤ん坊の身体を覆うハリはごくごく柔らかく、まるで産毛のよう。母親は子供にハンスと名づけてそれはそれはいとおしんだ。哀れなことに、この赤ん坊は村人にあざ笑われ、父親すらからも疎まれるようになったのだが。父親は、どう見てもけだものにしか見えぬ我が子を愛することが出来ない。ハンスも成長し、己の姿が他の少年達と違っていること、食事するときでさえまさに動物そのままであることを気に病み、孤独を囲っていた…。彼は一晩中考えた末、唯一の友達であるオンドリ、羊、豚、メンドリ達と共に家を出て行った。もう二度と辛い思いをせずに暮らせる場所を探して。母親は息子を失った悲しみでほどなく亡くなってしまった。

20年後、ある王様が森の中で道に迷って困っておった。だが彼は偶然耳にした美しい楽の音色に誘われ、滝に囲まれた辺鄙な森の中で壮麗な城を見つけたのだ。王様は迷うことなく、一夜の宿を求めて城の主に目通りを願った。だが出てきたのは全身ハリに覆われた大きなけもの。驚いた王様はしどろもどろに事情を説明し、なんとかそのハリネズミに窮状を助けてもらうことができた。ハリネズミは親切にも、旨い料理と酒で王様をもてなし、バグパイプで妙なる音を奏でるのだった。
夢のような一夜のあと、王様は木の根元で目を覚ました。そこからは容易に自分の国が見える。王様は感謝してハリネズミに褒美をとらせることを約束した。ハリネズミは、“王様を最初に出迎えた者”をくれと答えたんだ。その褒美はきっかり1年後にもらいに伺う、とな。
王様は城に戻ったが、彼を最初に出迎えたのは城の番犬ではなく、なんと1人娘のチェリー・パイ姫だった。ハリネズミとの約束の日が刻一刻と近づき、いよいよ明日、彼が姫をもらいに城にやってくる。当然王様と王妃様の胸中は穏やかではない。なんといっても相手はハリネズミなのだから。しかし無情にも約束の刻限となり、ハリネズミが城に姿を現した。王たるもの、いったん交わした約束を反故にしてはいけない。王様は娘をけだものにくれてやったのだ!姫は涙を見せつつも気丈にふるまい、父の命の恩人でもあるハリネズミに嫁いだ。ハリネズミは姫に、共に森の中で暮らし、自分を愛してくれるように懇願する。城では結婚式がとりおこなわれたが、皆まるで葬式のように悲しみに沈んでいたよ。
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その日の夜、姫は恐ろしさに身を震わせながら床に入った。ハリネズミはひとしきりバグパイプを奏で…姫の髪を優しくなでると、するりと毛皮を脱いで部屋の外に出て行ったのだ!姫は信じられない思いでその光景を見やった。外にいたのは美しい人間の姿をした青年だ。彼女は、脱ぎ捨てられたハリの毛皮にそっと触れてみた。それは驚くほど柔らかく、暖かかった。翌朝、目覚めた姫の隣には、ハリネズミの姿に戻った夫が寝ていた。姫は事の真相を確かめるため、その晩もう一度寝たふりをしてみたのだ。すると夫は、やはり毛皮を脱いで外へ出て行く。毛皮に身体を預けると、姫は不思議と幸せな気分に満たされ、ついそのまま寝入ってしまった。やがて戻ってきた夫は、彼女に静かに問いただす。お前の夫は人間とけだもののどちらだ?と。彼は生まれたときの呪いのせいで、ハリネズミの姿に貶められたのだ。しかし、姫が彼を心から愛することが出来れば、そして明日の朝まで姫が彼の秘密を守り通すことが出来れば、呪いはとける。姫は沸き立つような気持ちを抑えて、必ず約束すると誓った。
だが王妃様は、娘の様子がいつもと違うことに気づいていた。そこで、呪いをとく方法をエサに、それとなく娘に探りを入れたんだよ。全く母親というものは!姫は思わず夫の秘密について口を滑らしてしまった。王妃様は、あの毛皮を焼いてしまうよう言いつけたのだ。
その晩、夫が毛皮を脱ぎ捨てると、姫は母親の言葉を思い出した。そして誘惑に勝てず、その毛皮を暖炉にくべてしまった…。ほどなく、外でけものの悲鳴が響き渡った。ハリネズミの姿に戻ってしまった夫が、背中から煙を吹き出しながら苦しんでいる。ハンスは姫が自分との約束を守れなかったことを思い知り、怒りと共に城を後にした。全身のハリを逆立ててな。もはやそのハリは柔らかくもなく、すがりついた姫の手を突き刺すほど鋭くなっていたのだよ。
姫は悩み続け、ついに決心した。自分への罰として鉄の靴を足に履き、夫を探すためにたった1人で城を出て行ったのだ。鉄の靴が磨り減るほど方々を歩いたが、愛する夫は見つからない。姫は新しい鉄の靴を足につけ、ハリネズミの姿とあの妙なる音を探してさらに放浪した。湖面に映る自分の姿は100歳も年をとったようにやつれ果てており、赤毛は真っ白になっていた。
ある日、森の中で見つけた小屋に人の気配を感じ取った姫は、鳥がハリネズミの姿に変身するのを目の当たりにした。姫はついに夫を見つけたんだよ。今こそあの時言えなかったことを夫に言うべきだ。ただ黙ってあなたを抱きしめたかったのだ、とな。そして姫は、裏切った自分を決して許さぬだろう夫の身体をひしと抱きしめたんだ。彼は抗ったが、その身体から苦痛と哀しみと共に毛皮が消え、鳥の羽根も消えていった。美しい青年の姿になったハンスは、姫と手に手を取り合い、城へ帰っていった。再び愛を取り戻した喜びで姫の髪の毛も美しく戻り、今度こそ幸せに満ちた結婚式が行われた。わしはその晴れやかな席で、本当の愛についての物語を皆に語って聞かせたよ。姫が褒美にくれた靴は、すり減ってしまってもうないけどもな。

ハリネズミのハンスの“ハリ”は、相手がどれだけ彼を愛しているか、その愛情の深さに比例して柔らかくなっていきます。ハンスを疎ましく思う者には、そのハリは鋭くとがり傷をつけるのです。つまりハリの硬さは、己に向けられた愛情を測るバロメーターであり、彼を愛さない人間から彼自身を守る働きをしているのですね。無数のハリに覆われたハンスの内面には、人とは異なる容姿のせいで、愛されたくとも誰にも愛されないけだものの哀しみが満ちていました。
チェリー・パイ姫は、当初こそ約束の手形に嫌々このハンスの妻になりますが、やがて彼の本当の優しさや深い孤独を知り、本人も知らぬうちに彼を愛するようになっていきます。ですが、大事な“約束”や“誓い”ほど守れない人間の浅はかさで、つい母親の口車に乗ってしまう。ために夫を失う羽目になって初めて、彼女は夫への自身の秘めたる愛情に気づきます。
もっともここで話が終わってしまっては悲劇ですが、そこはヘンソンの紡ぐおとぎ話。姫は己の過ちを悔いながら夫を探し続け、ついにその真実の愛情で彼にかけられた呪いを打破してしまう。どんな呪いであろうが逆境であろうが、真の愛情に勝るものはないという大団円ですね。このお話は、ディズニー映画にもなった「美女と野獣」の原型である民間伝承です。元はこんなお話だったんですねえ。野獣であるハンスの生い立ちに深く触れていて、長い間子宝に恵まれなかった彼の両親の悲しみや、異形の者として生まれついた子供を持ったその苦しみにまで言及している、なかなか興味深い内容でした。
ちなみに、ヒロインのチェリー・パイ姫役で、後にテレビの「炎の英雄シャープ」シリーズでショーン・ビーンと共演し、ちゃっかり結婚までしたアビゲイル・クラッテンデンが出演しています。口元をゆがめるようにして、舌足らずな台詞回しを披露してくれていますね。姫の幼い雰囲気をよく出していましたよ。ええ、褒めてるんですってば。


第2話:「恐怖を知らなかった少年」(ドイツ民話より)
監督:スティーヴ・バロン
ゲスト出演:リース・ディンズデール(フィアノット)
ウィリー・ロス(マッカイ)
フレデリック・ウォーダー(上半身だけの男)
ガブリエル・アンウォー(リディア)

(物語)
誰にだって苦手なもの、怖いものはある。この犬がクモを怖がり、わしがネズミを嫌うようにな。ところが、わしの遠縁に当たる女性の次男坊は違ったんだ。その少年は、怖いものがなんにもないんだよ。女性は早くに亡くなり、後に残されたのは仕立て屋の夫とその長男、そして生まれてこの方恐怖を感じたことがないという変わった次男坊フィアノットだった。
フィアノットは近所の商人の娘リディアが大好き。毎日屋敷の窓辺でフィドルを奏でていた。美しいセレナーデはリディアの心をとろかし、2人は互いに名も知らぬまま相思相愛になっておった。だが困ったことに、恋にうつつを抜かすあまり、フィアノットは父親の言いつけた用事をたびたび忘れてしまった。赤毛のふわふわ頭には、なーんにも詰まっちゃおらん。だから、近所の悪ガキどもが彼を驚かそうと妖怪の振りをしても、怖がりもせん。呆れた父親は、彼に40シリングを渡し、家を出てなにかを学んでこいと言い含めた。
そこで彼は、まだ一度も体験したことがない “恐怖”を知る旅に出たのだ。40シリングとフィドルを抱えたフィアノットは、道端で1人の乞食に出会った。薄汚れた身なりで口ばかり達者なその男は、マッカイと名乗った。マッカイはフィアノットをいいカモだと踏み、言葉巧みにスカーフを売りつけようとしたが、恐怖を与えてくれれば40シリング払うという彼の突拍子もない願いを聞くや、彼を怖がらせようとあの手この手で頑張ったんだよ。でもなにをやってもダメ。諦めたマッカイは、恐ろしい化け物の住む池へと彼を案内することにしたんだ。日も沈もうとする頃、2人はようやく目的地にたどりついた。道すがら、彼らに警告する者もいたさ。しかし恐怖を味わえると喜び勇むフィアノットは耳を貸さない。彼は、上手く逃げたマッカイを残して池のほとりに座り込んだ。池の底に身を埋めていた化け物は、久しぶりの獲物を捕らえようと手下を放つ。
池の中から寂しげにうつむく美女達が現れ、薄絹を翻しながら彼を水の底へ誘った。彼はその様子に心を奪われ、思わずフィドルを奏でる。彼の身体は徐々に池の底に引きずりこまれていった。そう、これこそが彼女たちの役目なのだよ。おぞましい姿をした妖怪に、人間を捧げるのさ。だがフィアノットは化け物を見てもなんとも思わない。それどころか、妖怪の方がフィドルの音色に心を奪われてしまった。妖怪は、その物悲しいアイルランド民謡を聴きながら、思い立ったように池を出ていき、二度と戻らなかったという。フィアノットは見事妖怪を退治した!彼は、喜んだ村人から75個もの贈り物をもらい、相棒兼マネージャーになったマッカイが彼の武勇伝を本にしたためるようになったんだ。トロールやらドラゴンやら悪魔やらをやっつけた英雄フィアノットのな!金持ちになった2人は旅を再開したが、そこでふとフィアノットは40シリングの約束を思い出した。彼はまだ恐怖を味わっていない。フィアノットはマッカイに金を払い、恐ろしい目に合えるはずの場所へ案内するように頼んだ。
その城に入った者は、二度と生きては出られないという。そこに住んでいた王族は絶え、近隣の土地も荒れ果てた。城の周囲にはしゃれこうべが山になっている…。フィアノットは贈り物の見張りをマッカイに託し、勇んで城の中に入っていった。
静まり返った城内には人骨が転がり、どこからか断末魔の悲鳴が聞こえてくる。これは期待できそうだ。と、暖炉の中から上半身だけの男が現れた。彼は大声で下半身を呼ばわり、嫌々出てきた下半身に飛び乗ると、フィアノットにゲームをけしかける。人骨で行う骨倒しゲームだ。ボール代わりはしゃれこうべ。男が勝てば、フィアノットの足をもらう。男はギクシャクした動きでしゃれこうべを放り、9本の骨のうち見事8本を倒してみせた。次はフィアノットの番だ。彼はしゃれこうべを少しく削り、表面を滑らかにすると9本の骨を全て倒す。ゲームに破れた男は、悔しそうに姿を消した。結局その男もフィアノットを怖がらせてはくれなかった。仕方なく彼はその晩城に泊まることにしたんだよ。すると、寝床に冷たくなったマッカイが横たわっていた。たった1人の親友が死んでしまい、悲しみにくれるフィアノットは、彼の身体を暖炉の傍に置いた。その瞬間、マッカイはあの上半身だけの化け物に変身しておった。フィアノットは、襲い掛かってきた奴を一撃で倒す。男は悲鳴だけを残して魔界へ帰っていった。へっぴり腰で様子を見に来た本物のマッカイと再会したフィアノットは、城内の探索を始めた。なんと最上階には黄金の山が隠されていたのだよ。2人は目もくらむ黄金を山分けにし、大喜びで踊り狂った。
金持ちにはなったが、やはりフィアノットは恐怖を知らぬままなのが不満だ。だが金持ちに恐怖は必要ないだろうと相棒に諭され、彼はとりあえず家に戻ることにしたんだな。マッカイはフィアノットの家の前で彼に別れを告げる。そして40シリングを父親に返すように言い置いて、去っていった。
フィアノットは以前のように、リディアの屋敷の前でフィドルを奏でた。だが窓を開けたのは彼女の父親だ。リディアはフィアノットが家を出て行った後、悲しみから病の床に伏してしまったのだ。フィアノットが名前を呼んでも彼女は一向に目を覚まさない。…リディアが死んでしまう!彼の胸は恐怖で張り裂けんばかりになった。リディアはようやく死の淵から蘇り、目を開けた。その瞬間、フィアノットははたと気がついた。彼女を失うと思ったと同時に、彼はすさまじい恐怖を覚えたのだよ。これが“恐怖”というものだ。
恐怖を求めて家を出た少年は、結局家に戻って恐怖の意味を悟り、最愛の娘と結婚して末永く幸せに暮らしということだ…。うん、確かマッカイ氏の若い頃の話は、こんなだったと記憶しとる。

童話「青い鳥」の原型のようなお話ですね。主人公の少年は幸福を求めるのではなく、なんと“恐怖”を知りたいと願う。彼は、旅の途中で知り合った詐欺師まがいの乞食を、その天性の能天気さと無邪気さ、素直さで魅了し、恐怖を知るためなどというはた迷惑な旅の道連れにしてしまいます。
お話を語っている語り部同様、この口の達者なマッカイ氏も、恐怖を知らないという類稀な性質をもつフィアノットの物語をあちこちで語り継いできたのでしょう。人間を食らう妖怪をフィドルの音色1つでよそへ撃退し、城に迷い込んだ人間に死のゲームを仕掛けては、その足を奪うという悪鬼をも知恵で退治したフィアノットの冒険譚を面白おかしく聞かせてくれます。いずれも印象に残るのが、フィアノットの純粋さなんですよ。彼は非常に素直で、しかも自分の目で見たものしか信じないという単純な頭を持っていたが故に、“恐怖”を感じないのですね。かくも恐怖の実態とは、目に見えないもの、ありもしないものを想像力で何倍にも膨らませた上に生まれる感情なんですねえ。それがよくわかります。また、傍にいて当たり前だと思っていた愛する者を失ってみて初めて、その大切さを思い知るものであり、それに勝る恐怖もないのだというくだりも、洋の東西、時代を問わず言い伝えられている教訓です。
池の底に潜む化け物や、上半身だけの男など、ビジュアル的にはかなり不気味なクリーチャーが出てきますが、今の感覚で見ると古めかしい絵本の挿絵のような感覚ですかね。一見邪悪そうで不気味なんだけど、どこかマヌケな雰囲気が漂っていて憎めない。ストーリーテラーに出てくる化け物って、皆そうですね。腹の底までどす黒い正真正銘の怪物はいず、むしろ人間の方が恐ろしいことを平気でしでかすクリーチャーとして描かれています。このシリーズのダブルミーニングとして重要な点でしょう。


第3話:「最後の一話」(ケルト民話より)
監督:チャールズ・スターリッジ
ゲスト出演:ブライアン・プリングル(料理長)
ジョン・カヴァナフ(物乞い)
ブレンダ・ブレッシン(語り部の妻)
リチャード・ヴァーノン(王)
サラ・クロウデン(王妃)

(物語)
わしは古今東西の物語に通じているが、それでも大勢の聴衆を前に、ふと話の先を忘れてしまうことがある。いまいましいことに、そんな経験は昨日だけではなかったんだ。
昨晩話に詰まったわしは、罰として食事を物乞いに施さねばならんかった。実は、遠い昔わしも物乞いだったことがある。すきっ腹を抱えて帰る家もなく、雪降る街路をさまよう哀れさは筆舌に尽くしがたい。
ある日いつものように歩いていると、新しく建った城から料理のいい香りが漂ってきた。早速裏門を叩こうとすると、別の物乞いが料理長に叩き出されるところだった。わしはすかさず知恵を働かせ、その料理長に1杯の水を乞うた。それさえあれば、あなたにとびきり旨い石のスープをこさえてあげると請合ったんだ。その頭のにぶそうな料理長は鼻で笑ったが、好奇心には抗えんかったようだ。なにしろ、石から美味しいスープが出来るなんて聞いたこともない話だからな!もう1人の物乞いは、事の成り行きをおもしろそうに見守っておったよ。
わしとその物乞いは、城の厨房に通された。わしの甘言に騙されておるとも知らず、料理長はわしの言うがままに、塩、ラムの骨、青菜、芋を石が煮え立つ鍋の中に放り込んでいった。最後の仕上げに厚い肉の塊まで!よし、これで石のスープの完成だ。料理長は、できあがったスープを飲み干し、その旨さに感嘆したよ。そりゃそうだろう。これだけいろんな具を入れれば、どんな阿呆にでも旨いスープが作れるというもんだ。もちろん、石なんか関係ないことさ。物乞いと一緒にたらふく食った後で、上手いことかつがれたと知った料理長は、主である王様の前にわしを引きずり出した。満腹で気分の良かったわしは、死刑にしてくれると息巻く料理長を尻目にこう言ったんだ。わしは語り部、物語を語り、詩を諳んじ、手品だってお得意だ。わしはそこらの道化者とは違うんだ。王様や王妃様、王子様を毎晩楽しませてさしあげられる。王様はわしの口のうまさに感じ入り、ひとつの案を下された。これから1年間、毎日玉座の間で知る限りの物語を語ること。話をするたび褒美として金貨を1枚とらせるが、話ができなかったり逃げようとすれば、罰として煮えたぎった油の中にわしを放り込むというものだ。
わしの本領発揮だよ。毎晩王様の前で話をするだけで金貨をいただけ、ご馳走を腹一杯食える。それに空気のように柔らかな羽根のベッドに寝起きし、さらさらのシルクのガウンを羽織るんだ。おまけに、わしを気に入ってくれた王様は、なんと妻まで授けてくださった!愛しい妻と共に、お城の中で夢のような毎日が過ぎていった。そして約束の1年の最後の日の朝のことだ。
いつものように気持ちよく目覚めたものの、わしの頭の中は真っ白だった。そう、今晩語るはずの物語が思い出せんのだ!なんとか話をひねり出そうとおろおろするわしの目に、煮えたぎった油の釜が見えた。今晩話ができなければ、哀れわしは油の藻屑と化してしまう。
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1人の来客があった。1年前、まさにこの城の厨房で一緒に石のスープを作った物乞いだ。城の生活が身についてすっかり居丈高になったわしに、その物乞いは手持ちの364枚の金貨で賭けをしたいと切り出した。そんなことをしている暇はない、夜までに話を考えださにゃならん。しかし目にもまばゆく輝く金貨を見せられては、わしのなけなしの理性はあっというまに吹っ飛んでしまったのだよ。だがわしには、理性だけでなくツキもなかったようだ。みるみるうちに自分の金貨をスッてしまい、賭ける物がなくなった。だが物乞いは娶ったばかりの妻を賭けろとけしかける。妻までが、欲に目がくらんだものかこの賭けに大乗り気だ。たとえ油の中で溶けてしまっても、妻だけは手放したくないというのに。仕方なくツボを振るったわしに、ついに奇跡は訪れなかった。妻はいそいそと物乞いに口付けし、そいつの妻になるとそっけない。物乞いは妻の身体を抱きながら、尚も悪魔の誘惑をちらつかせる。今度はわし自身を賭けろ、というのだ。これが最後のチャンス。…だがしかし、無情にもサイコロはわしの負けを示しておった。敗北を認めたわしの首に、あろうことか物乞いは太いロープをかけた。その瞬間、わしは灰色の哀れなうさぎになっていた!どんなに助けを求めても、口から出るのはけものの叫び声。物乞いと妻はそんなわしを見て、もっと小さな生き物の姿にしてしまえと笑う。挙句わしは目にも見えないノミに変身させられてしまった。物乞いはわしを床に放り出して厨房に向かっていったが、わしもそいつの身体に潜んでついていったんだ。
そこにはぶくぶくと肥えた料理長がいる。わしも他のノミ達もすぐそいつの皮膚に食いついた。
物乞いは料理長に、またまた賭けを申し出る。わしから奪った金貨を机の上に広げると、奴の目は途端にぎらぎら輝いたよ。インチキまじりの簡単な賭けだ。だがしかし、どんな魔法か知らんが、料理長は指を2本抜きとられ、耳も剥がれ落ちてしまった。
ノミの姿になっても物語りはせねばらなん約束だ。わしは物乞いの身体にくっついたまま、王様の前へ出て行った。王様はわしの物語を心待ちにしておられる。だが物乞いは、不遜にも堂々たる態度で余興を始めよった。長いロープを取り出し、天井に向かって放り投げると、それは意志を持ったかのように天井から直立したんだ。王子様は目を輝かせてもっと手品を要求する。物乞いは青く光る不思議なボールを取り出し、ゆっくりと天井に向けて投げた。だがボールは返ってこない。王子様は焦れて、ご自分がロープを伝って見にいくと言い出した。物乞いがロープを引き裂いて縄梯子にすると、王子様は梯子を伝って登っていった…。ところが、王子様は待てど暮らせど戻ってこない。ロープだけが力を失って上からへたりと落ちてきた。さあ大変だ、大勢の目の前で王子様が消えうせたんだ。物乞いが肩をすくめると、ボールだけが落ちてきた。一瞬しんと静まり返った室内が、物乞いへの怒りに満たされる。王様の命令で物乞いは油の中に放り込まれることになった。とんでもない!わしも一緒に死んでしまうじゃないか!物乞いは頭から煮えたぎった油の中に落ちたが、なんとこの男、平気な顔で鼻歌混じりに身体なんか洗っている。確かに油はぐらぐらしていた。いぶかった料理長が試しに自分の指を油につけたんだから。だが不思議なことに、料理長は怪我ひとつせず、失くした指も元通りになっていたのさ。取れたはずの耳もな。そしていなくなった王子様まで油の中から出てきた!もちろん、このわしも無事に元の姿に戻れた。そして物乞いは…消えていた。油の中に溶けてしまったようにな。まっこと、見事な魔法だった。
わしは暗闇の中で、身体がふわっと浮き上がったかと思うと、真っ逆さまに落下していった。床に叩きつけられる寸前、ふと我に返ると、妻が心配そうにわしを覗き込んでいた。夢だったのだろうか。まさにそのとき、わしは王様の御前に引き出されていったんだ。料理長は油の用意をして手をこまねいて待っておる。わしは正直に、もう話す物語がないと告げた。その代わり、我が身に起こった今日一日の不思議な出来事を語ってお聞かせした。朝目覚めたときからのことを、細大漏らさず全てな。あれは夢かまことか。その信じがたい話を語り終えた頃、王様の目から涙がこぼれ、王妃様や料理長までがおいおいと泣いていた。
「王様、そんなわけで今日はお聞かせする物語がないのです」
しかし、その場にいた皆が感動の涙を流しながら拍手をしてくれたんだ。王子様は大喜びでわしに飛びつき、おかげでわしはもう一度同じ話を始めからお聞かせすることになった。あの物乞いは、わしに素晴らしい“物語”を与えてくれたのだよ。やつはわしの妻にまでけしからぬ魔法をかけたが、結果的にわしを助けてくれたんだな。その後わしはその後を追ったが、もうやつの姿はどこにも見えなかった。料理長はわしがあげた石を宝物にし、物乞いにも自ら食べ物を施すようになった。これが、失われた物語の中から物語が生まれた話だ。王様の一番のお気に入り。
…まあ、あの美しい赤毛の妻がわしの元に戻ってくるという最後ならば、もっと良かったんだがな。

このお話は、“物語を語る”醍醐味に溢れた内容だと思います。語り部自身が体験した不思議な物語。それを、夢かうつつか、曖昧模糊としたおとぎ話ならではの入れ子構造にして語り部に語らせる。もともとのお話は古い民間伝承ですが、脚色は、後に監督として「イングリッシュ・ペイシェント」や「リプリー」等を手がけて大成した、アンソニー・ミンゲラが担当しています。彼自身の語り口の上手さも際立つ一遍ですよね。監督は、ジェレミー・アイアンズ出演のテレビシリーズ「華麗なる貴族」、ルパート・エヴェレット主演の「ハンドフル・オブ・ダスト」等、端正な文芸作品を多く手がけるチャールズ・スターリッジ。語り部の妻役でゲスト出演したのは、「秘密と嘘」や「プライドと偏見」での演技が印象的だったブレンダ・ブレッシンです。彼女は後にヘンソンが製作した「ジム・ヘンソンのウィッチズ」にも出演していますね。
かつて彼が物乞いだった頃、一食にありつくためにあるお城で繰り広げたとんちから、お話は始まります。石のスープを作るなどという突拍子もないホラ話をしかけ、虎の威を借る狐であった料理長の鼻を明かした語り部と物乞い。その機転を気に入った王様は、語り部をお抱えの芸人として扱います。ですが、必ず1日に1話、物語を語らねば彼は即刻処刑される運命にあるのです。まるでシェヘラザードのごとく、語り部は自分の命をかけて語り続けますが、約束の最後の日、とうとうお話が尽きてしまいます。そこにやってきたのが、一緒に石のスープをこしらえた物乞い。彼は様々な魔法を行い、語り部はうさぎになったりノミになったり、挙句の果てには油の中に放り込まれて大変な目に合ってしまいます。このテンポのよい奇想天外な展開は、やはりおとぎ話らしいですよね。物乞いが次々と繰り出す魔法の描写は、ヘンソンの面目躍如といったところ。
王様のご機嫌ひとつで、哀れな庶民の命が無造作に奪われたり、あるいは、富める者が貧しい者を虐げるのが当たり前といった描写からは、今も昔と変わらず存在する社会の不均衡を思い知らされますね。劇中ではその不公平を、料理長と見世物的に行われる処刑が象徴していました。料理長は自らも王様に使役される身でありながら、その威を借り、より貧しい者達を省みることがありませんでしたね。
考えてみれば、あの不思議な力を持つ物乞いは、そういった社会のアンバランスを正し、上に立つ者に常に熟慮を促す役割を持っていたのかも。彼は料理長の指と耳を奪うことでこれを懲らしめ、王様に対しては王子様を消す魔法によって意趣返しをしたのですよ。それが証拠に、あんなに偉そうに物乞いを虐げていた料理長が己の行動を改め、自ら貧しい者たちに食べ物をふるまうようになったではありませんか!そう、彼は物乞いに身をやつした神の使いだったのかもしれませんよ。
富める者がその富の一部を社会に還元し、底辺から社会をより良い方向に導くこと。これは果たして今の世の中できちんと実行されているでしょうか。

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