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zoom RSS 不条理と戦争と資本主義=「キャッチ22 Catch-22」

<<   作成日時 : 2014/10/05 00:21   >>

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狂っているのは俺か、戦争か、世の中か。自己矛盾と不条理の支配する世界へようこそ!

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「キャッチ22 Catch-22」(1970年製作)
監督:マイク・ニコルズ
製作:マーティン・ランソホフ&ジョン・コーリー
原作:ジョセフ・ヘラー『キャッチ22』
脚色:バック・ヘンリー
撮影:デヴィッド・ワトキン 
出演:アラン・アーキン (ヨッサリアン大尉)
マーティン・バルサム (キャスカート大佐)
リチャード・ベンジャミン(ダンビー少佐)
アート・ガーファンクル(ネイトリー大尉)
アンソニー・パーキンス(従軍牧師タプマン)
ジョン・ヴォイト(マイロ)
オーソン・ウェルズ(ドリードル将軍)
ジャック・ギルフォード(ダニーカ軍医)
ボブ・ニューハート(メイジャー少佐)
マーティン・シーン(ドブス)
ポーラ・プレンティス(看護婦)
バック・ヘンリー(コーン中佐)
ボブ・バラバン(オーア)
マルセル・ダリオ(娼館の老主)
チャールズ・グローディン(アーフィー)
オリンピア・カルリージ(ルチアナ)他。

第 2次世界大戦中ののイタリア、ピアノーサ島にあるアメリカ空軍基地。ここでは来る日も来る日も、敵地に向けて空爆を行う戦闘機が飛び立っていた。滑走路近くの廃屋の中で、爆撃手ヨッサリアン大尉(アーキン)は司令官キャスカート大佐(バルサム)と副官コーン中佐(ヘンリー)と話し合っていた。ヨッサリアンは、大佐たちと重要な取引をする決意をしたのだ。愛する祖国へ帰るために。ところが、掃除婦に化けていた女が突然彼にナイフを突き立てた。腹を刺された彼は、薄れていく意識の中で過去へと押し流されていく。

フラッシュバック。ヨッサリアンは、敵機からの反撃を受けた自軍機の爆撃手、スノードンを助けるよう無線連絡を受けた。彼は負傷していたのだ。

意識の混濁するヨッサリアンは、ただちに手術室へと連れて行かれた。死んだスノードンの名を口走る彼に、看護兵は言う。「気狂いだな」

フラッシュバック。食堂で食事中のヨッサリアンたちは、今日も誰が一番気狂いかで不毛な討論を繰り広げている。リスのように口に食べ物を頬張ったまましゃべるドブス、金持ちのボンボンのネイトリー、いつもパイプを吹かしたキザ野郎アーフィーなど。規定の空爆回数をこなしても、繰り返し戦地に送られてしまう彼らは、皆精神の破綻におびえているのだ。中でもひどいのはヨッサリアンで、彼は仲間内からも被害妄想にやられていると認識されている。「辛いのはお前だけじゃないさ、いっぺん頭を診てもらえ」
ヨッサリアンは、なんとか精神に異常を来たしているという診断が欲しい。そうすれば軍の規定により、飛行が免除されるからだ。彼はもう35回も空爆を行い、充分帰国する権利はあるのだが、キャスカート大佐がまた責任爆撃回数を50回にまで引き上げてしまった。これではいつまでたっても帰国できない。ダニーカ軍医いわく。
「もし私が規則を守れば君に意見できるんだが、そもそも意見するのは規則で禁じられている。狂った者はもちろん出撃させない規則だが、自らの申し出がない限り、出撃は免除されない。一方、狂った人間に自分が正気かどうかはわからない。つまりそこが落とし穴(キャッチ)なのだ。飛行免除されるには、狂っていなければならない。だが免除を願うということは正気である証拠なのだ。それこそ、“キャッチ22”である」
まるで空港内のアナウンスのような、作戦将校ダンビー少佐の朗らかな挨拶を背に、ヨッサリアンたちは今日も出撃する。キャスカート大佐のだみ声がこだまする。
「ドリードル将軍は爆撃の成果を楽しみにしておられる。いけ!」
彼らを送り出した後、管制塔から出てきたキャスカート大佐を待ち受けていたのは、食料調達係りのマイロだった。彼はマルタ島から新鮮な卵を手に入れたという。戦時下、それは貴重な食料だ。シシリア人に軍から支給される毛布を与えれば、オレンジやオリーブ油も手に入る。つまり物々交換で貴重な資源が数多く手に入り、それを売りさばけば莫大な利益を得られる。地中海沿岸地域のアフリカ諸国の協力さえ得られれば、この商売はうまくいくだろう。そのために、MMエンタープライズという会社を組織し、株式も発行する。エンタープライズから得られる利益はすなわち国家の利益である。マイロはこの任務に専念するため、飛行機と時間を自由に使う権利をキャスカート大佐から獲得した。マイロは早速手始めに、兵士全員分の備品のパラシュートを回収し、アレキサンドリアで綿花と交換してくるという。
一方、機内のヨッサリアンは、パラシュートがなくなっているのを発見してパニックに陥る。基地に引き返そうとする彼を、ネイトリーとアーフィはなだめる。そうこうするうちに目標地点に到達したが、敵機に見つかり、自機も爆撃された。自身も負傷したヨッサリアンは、仲間のオーアの機が墜落していくのを尻目に気を失う。

フラッシュバック。ヨッサリアンはスノードンを助けろという無線にせかされ、彼の手当てを行う。損傷した機内でしきりに寒がるスノードン。彼の足は血まみれになっている。大丈夫だとしか言えないヨッサリアン。

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フラッシュバック。気がつくと、ヨッサリアンはベッドの中だった。従軍牧師タプマンがそばについて励ましてくれた。彼は牧師に、飛行を免除してくれるよう隊長とかけあって欲しいと泣きついた。責任爆撃回数がまた引き上げられた。もう耐えられない。全身包帯を巻かれたミイラのような負傷兵を見ると、彼のパニックは頂点に達する。
隊長ドゥルースがペルージャで戦死したため、緊急に新たな隊長が必要になったキャスカート大佐は、名前がメイジャー(少佐)だというだけで、メイジャー大尉を隊長に任命する。メイジャーは部隊の洗濯担当で、実戦経験もゼロ。そんな自分に隊長の実務がこなせるはすがない。彼はヨッサリアンのことで自分に面会を申し込んできたタプマン牧師をまくため、中世の王侯貴族にならってつけひげで変装し、自分が自室にいるときは誰も部屋に通さないよう、部下に命じ窓から逃走した。
「今後私が部屋にいないときに限り、面会人を入れろ」
タプマン牧師は何度も無駄足を踏んでしまう。結局隊長は誰とも面会しないのだ。彼はキャスカート大佐の所へ連れて行かれる。コーン中佐もキャスカート大佐も彼を“神父”と呼んで譲らない。うんざりしながら面会を待っていると、海から救助されたオーアが同じく面会を待っていた。彼は墜落するのはこれで4度目だという。出撃するたび墜落して海に落ち、そのたびに海から救助されて戻ってくるのだ。牧師はもう飛ばない方がいいと忠告するが、オーアは謎の言葉を返してきた。
「大丈夫。これは練習だから」
大佐は、雑誌に載ったライヴァルの大佐の記事を牧師に見せた。彼の連隊では、出撃前に必ず祈りの会を開くという。自分も記事にされたいばかりに、牧師にシャレた祈りの会を開くことを強制する大佐。牧師は、責任爆撃回数の増加で、兵士達に不満が広がっていることを大佐に忠告するが、一笑に付されてしまう。
大佐は、腰ぎんちゃくコーン中佐の入れ知恵で、兵士達の士気に渇を入れることにした。泣く子も黙るドリードル将軍を基地に呼ぶのだ。彼に文句を言う兵士達を八つ裂きにしよう!
兵士を集めて、次の爆撃地フェラーラについての作戦会議が開かれている。看護婦にセックスを拒否されて欲求不満のヨッサリアンは、会議中もうなり声をあげたり体を揺すったり、挙動不審になっている。そこへドリードル将軍が、すぐに人のあげ足を取る義理の息子とセクシーな愛人を従えてやって来た。兵士達の集中力は将軍ではなく、愛人のボディラインに釘付けだ。そこで大佐が、任務完了までの責任爆撃回数を75回に引き上げることを宣言した。
つかの間の休暇。ヨッサリアンたちは街に繰り出した。ネイトリーは、街に住む愛人の娼婦をいずれ故郷に連れて帰るという。「もっと相手を選べっての」「恋は盲目だからな」好き勝手に茶々をいれるヨッサリアンとドブズたち。アーフィは街の娘と馬車に乗って登場だ。みなでネイトリーの愛人の家で飲むことになったが、ヨッサリアンは沈んでいる。あと2回飛べば帰国できるが、どうせキャスカートの野郎がまた爆撃回数を増やすに決まってる。交代要員がナポリに着いたから大丈夫だという、ドブスの慰めも耳に入らない。そのとき彼は、通りを闊歩するセクシー美女を偶然見かけた。彼女の名はルチアナという。早速彼女に言い寄る。ダンスをし、いい雰囲気だ。
優秀な兵士達に空軍殊勲章を授与することになった。大佐は、士気高揚のためだからと、ぶつくさ文句を言う将軍をなだめる。

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先日フェラーラの街の爆撃を行った。そこにはドイツ軍はいないし、工場も鉄道も港もない。作戦上の重要拠点ではないのだが、ヨッサリアンは爆撃に疑問を持った。結局、アーフィと彼がコックピット内で揉めている間に爆弾を投下してしまい、街ではなく海を爆撃することになってしまう。つまり爆撃失敗のもみ消しのための授与なのだ。なんとも矛盾したことだが、とにかくヨッサリアンたちは、空軍殊勲章を授与された。しかし、ストレスも頂点に達していた彼は、素っ裸でメダルを受け取りに行く。将軍の詰問にもへらへら笑うだけの彼。

フラッシュバック。ヨッサリアンはスノードンの手当てをしている。寒がる彼にコートをかぶせてやり、痛み止めのモルヒネを処方しようとしたが、備品は空っぽ。マイロが持っていってしまったのだ!

フラッシュバック。ヨッサリアンは、仲間と海岸で休暇を楽しんでいた。マイロが、仕入れた品々を検分している。ヨッサリアンはマイロを見つけると、パラシュートの件で文句を言った。マイロは悪びれなく、MMエンタープライズのためだとうそぶいた。
「建材や靴、彫像をパラシュートやディーゼルエンジンと交換したんだ。戦争が終わる頃には、俺達はみんな大金持ちだ!」
“腹ペコジョー”がヨッサリアンたちに向かってなにか叫んでいる。なんとマクワット大尉が、自機を操縦して超低空飛行でそこらじゅうを飛び回っているのだ。どうやらマクワットは、看護婦をめぐってヨッサリアンと恋の鞘当をしていたらしい。ジョーは狂気のマクワットの機で、体を真っ二つに裂かれて絶命した。マクワットの機もまた、崖に激突して大爆発。これでジョーもマクワットも死んでしまった。
その後、スノードンの葬式が行われた。ダンビー少佐、メイジャー少佐、タプマン牧師が整列する中、木の上からは素っ裸のヨッサリアンが葬式の模様を見つめている。そこにマイロがやって来た。綿花を買い占めたのがダブついてしまったらしい。

フラッシュバック。首尾よくルチアナをベッドに誘い込んだヨッサリアン。アメリカ軍の空襲で怪我した自分を恥じるルチアナに、彼は結婚を申し込んだ。ルチアナは自分は処女じゃないから結婚はできないと言い張った。
「私と結婚したがるあなたが変で、つまりあなたは変だから私と結婚できないの」
「君こそおかしいよ」
ネイトリーは、愛人の娼館で、老主と押し問答をしている。
「イタリアは世界一弱い。アメリカは世界一強い国だ。でもだからこそ、イタリアはうまくやっていけるのだ。イタリアは確かに他の国に占領されたが、ドイツ亡き後もイタリアは残った。アメリカが帰った後も残るさ。イタリアは貧しいが、この戦争にも耐え抜いて、アメリカが滅んだ後も生き残るよ」
「でもアメリカは滅びないよ」
「ローマ、ギリシャ、ペルシャ…すべての偉大な国家は滅んでいくんだよ」
「娼館だなんて良くないよ。主義主張や道徳心はないの?」
「ないね。わしはムッソリーニ時代はファシストだったが、今やすっかり反ファシストだ。ドイツ占領下では親ドイツ党だったが、今は親アメリカ党さ」
「日和見主義だよ。“ひざまづいて生きるより、立って死ね”だよ」
「違う。“ひざまづいて死ぬより、立って生きろ”さ。107年も生きてればわかるのさ」
ヨッサリアンが、ネイトリーとドブスを迎えに来た。休暇は取りやめ。オーアがまた墜落して行方不明になってしまったのだ。キャスカート大佐はカンカンで、責任爆撃回数を80回にまで引き上げたという。
ヨッサリアンたちは、マイロと共にオーアの捜索に駆りだされた。マイロは、今夜は滑走路付近に近づくなと釘を刺した。オーアの機はあったが、本人は依然として行方不明だ。ネイトリーは不安になり、自分に何かあったら、愛人のことを頼むとヨッサリアンに告げた。

フラッシュバック。思えばオーアは、いつも夜遅くまでなにかの部品をいじくっていた。
「ヨッサリアン、俺と一緒に飛ばないなんて、君はばかだよ」
「オーア、俺は溺死したくないんだよ。4回も墜落してるお前となんか誰も飛びたがらんよ」
「…君のためなんだが」

フラッシュバック。ヨッサリアンはやはりオーアが心配で、あちこち探し回る。しかし今回ばかりは彼は帰ってこなかった。ヨッサリアンは、ダニーカ軍医たっての願いで、オーアの家族と面会することになった。彼らは、オーアの臨終に立ち合わせて欲しいと、軍医に泣きついてきたのだった。それで彼の身代わりにヨッサリアンがしぶしぶ死人の振りをすることになった。

フラッシュバック。ヨッサリアンは、スノードンの死に目に立ち会ったことになるのだろうか。彼はスノードンの足に止血帯を巻いてやる。彼の体を見ると、体の右半分が血まみれだった。

フラッシュバック。ネイトリーがヨッサリアンを呼びに来た。ドブスがキャスカート大佐を殺すと思いつめ、彼のテントへ向かっているというのだ。拳銃で大佐の部屋を狙うドブス。すんでのところでドブスを止めた二人。
「離せ、あいつを殺らないとこっちが危ないんだぞ!あいつは俺達が死ぬまで飛ばし続けるんだ!」
激昂したドブスに愛人を侮辱されたネイトリーは、彼に殴りかかった。ドブスは、もつれ合ううちにネイトリーを失神させてしまう。大佐とコーン中佐が白のヘルメットをかぶって出かけていく。突然サーチライトに照らされるヨッサリアンたち。一体なにが始まるんだ?!なんと始まったのは基地の空爆であった。滑走路や倉庫などが次々破壊されていく。先導しているのは、マイロ。彼の指示に従って、自軍機が自軍の基地を空爆しているのだ!
「二人とも危ないぞ!早く避難しろ。これはMMエンタープライズの請け負った契約なんだ。彼らは自軍だよ、心配するな」
ドブスはそれを聞いてついに気が狂ったように笑い出し、ふらふらとどこかへ行ってしまった。ヨッサリアンは大佐を空軍の軍法会議にかけてやると脅す。しかし大佐もMMエンタープライズとグルだ。つまり、こういうわけだ。エンタープライズは、ドイツ軍に協力して自軍基地を爆撃すれば、ダブついた綿花をさばいてくれるという取引を結んだのである。あくまでも契約は守られねばならない。連隊本部を含む地上掃射が始まった。これも契約のうちだ。しかしそのために失神していたネイトリーは黒焦げに。

現在のヨッサリアン。彼は手術を受けている真っ最中だ。ネイトリーの名前を叫んだ彼に、死神が微笑む。
「友達はもらったよ」

フラッシュバック。基地爆撃後。ヨッサリアンは、ネイトリーの愛人に彼が死んだことを伝えに行く。アーフィは娘と夜の街に消えた。ところが娼館はもぬけの殻。老主は死に、娘達はみな憲兵に連れて行かれた。残っていたのは老女のみだ。憲兵たちは理由もなく、ただ“キャッチ22”とだけ叫んで娘を連れ去っていった。令状もなにもいらない。“キャッチ22”と言われれば、みな従わざるを得ない。法律でそう決まっているから。ヨッサリアンは、街に出る。憲兵達が若い娘を残らずトラックに乗せていた。そこへ、ヒトラー気取りのマイロが、立派な将校用の車に乗って現れた。護衛を大勢従えている。MMの腕章をつけ、彼はいっぱしのシンジケートのボスである。ヨッサリアンは彼に飛び掛ろうとしたが、護衛に阻まれる。
「ネイトリーはな、ビジネスにおけるある圧力の犠牲になったんだよ。僕のせいじゃないさ」
マイロはヨッサリアンをネイトリーの女のところまで連れてった。そこは、MMエンタープライズと大きな看板を掲げた建物だった。兵士達が数珠つながりになって順番を待っている。受付にはルチアナがいた。
「みなマイロの下で働いているの」
「…33番と言えと言われたんだ」
彼は10ドル払い、33番の部屋に向かった。つまり巨大な娼館である。ネイトリーの愛人に彼の死亡を切り出すと、彼女は逆上し、彼を人殺しと勘違いして襲い掛かった。命からがら逃げ出したヨッサリアンは、道端でアーフィのガールフレンドが死んでいるのを見つけた。人だかりがしている。アーフィのいるところへ急ぐと、彼は、彼女が抵抗したので窓から突き落としたんだと薄ら笑った。
「言いふらされると困るからね」
「どうして抵抗する女となんかやろうとするんだ!」
「商売女とはやらないんだ」
「殺人だ。逮捕されるぞ!」
「大丈夫。戦争で何千人と死んでるのに、一人ぐらいなんだ」
そこへ憲兵がやってきたが、なんと逮捕されたのはヨッサリアンだった。罪状は、“無許可外出”である。アーフィはにっこり笑った。
翌日。キャスカート大佐に呼び出されたヨッサリアン。
「君を帰還させる。君のせいで士気が落ちるんだよ」
「出撃回数を増やすからだろ」
「飛ばない君らが悪い」
「あんたのせいだ」
ここで、大佐が取引を申し出た。ヨッサリアンに帰国命令を出す代わりに、自分達を“好きになれ”というのだ。そうすれば、少佐に格上げし、英雄として故郷に凱旋帰国させてやる。彼らの仲間になって、彼らのことを祖国の人々に喧伝すればよし、そうしないなら軍法会議にかけるまでだ。ヨッサリアンは言う。
「仲間に対するひどい裏切りだ」
「大丈夫さ、すぐにそんなこと忘れる」
かくして彼は、大佐達と固い握手をかわした。取引成立である。これで彼は懐かしい故郷に帰ることができる。ところが外へ出ると、掃除婦に化けたネイトリーの愛人が、ヨッサリアンをナイフで刺した。「人殺し!」彼は意識を失っていく。

フラッシュバック。彼はスノードンの手当てをしている。寒がるスノードン。彼を元気付けながら、血まみれの体の部位を確かめようと服に触れると、皮がはがれて内臓が外に流れ出てきた。ヨッサリアンは、必死で吐き気をこらえる。スノードンはもう助からないだろう…。

現在のヨッサリアン。彼は病院で眠っていた。女に刺された傷はもう回復した。タプマン牧師とダンビー少佐が、帰国命令書を持ってきた。
「大佐をナチの手から救ったんだって?」
「違う。ネイトリーの女に刺されたんだ。大佐と取引して、帰国の代償に彼らの仲間になったんだよ。ひどい話だろ」
「…私にはわからんよ」
「じゃなにがわかる」
「…それもわからない」
罪の意識に苛まれるヨッサリアン。この3週間考え続けて出した彼の出した結論はこうだ。軍法会議にかけられるのはいやだし、大佐の仲間になりたくもない。だからここから逃げる。誰になんと言われようが、それしか方法はない。もう国のために3年戦ったんだ。今度は自分のために戦う。友達もいなくなってしまったし。
「知らないのか?オーアは16週間漂流を続けて、今はスウェーデンにいる。そこで救助されたんだ。救命ボートで漕ぎ続けたんだよ。最初から計画してたんだ。スウェーデンで終戦を待つ寸法なのさ!だからわざと墜落をして練習してたんだ」
「…奇跡だ!よくやった!彼はやったぞ!」
ヨッサリアンは窓から飛び降り、救命ボート片手に海岸を走る。タプマン牧師が後を追いかける。
「ヨッサリアン!もう誰も助けちゃくれないぞ!」
「わかってるさ!」
「よし、わかった、急げヨッサリアン!」
「死ぬのは怖いけど最高の気分だ!」

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救命ボートを広げ、彼はオールを手に漕ぎ始めた。向かう先は“自由”である。

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アメリカ空軍軍規第22項
「精神に破綻をきたした者は、自ら診断を願い出、狂気と診断されれば除隊できる。ただし、自ら己の狂気を認識できる者は、“狂人”とは呼ばれない」

これは、戦争の混乱の中で狂気を狂気と思いもしない狂気の軍人たちが繰り広げる狂気のエピソードを、時間軸を無視した狂気の構成で描いた作品です。しばしば、同時期に製作された「M★A★S★H」(ロバート・アルトマン監督)と共に、アメリカ映画を代表する反戦映画又は戦争風刺映画と評されますね。

映画は、主人公ヨッサリアンが実際に体験するできごとを、彼の認識する時間を逆行する形で描いていきます。つまり、冒頭で女に刺されて手術を受けている彼の朦朧とした意識の中に、フラッシュバックで過去の体験がよみがえるという寸法です。しかしジョゼフ・へラーの原作の方は、この時間軸そのものが曲がりくねっていて、しかも同じようなエピソードや同じようなセリフが繰り返し出てくるものですから、一体自分が読んでいる出来事がいつ起こったものなのか、あるいは登場人物の幻覚にすぎないのか、わからなくなってきます。その点映画では、ヨッサリアンの意識の流れに焦点を合わせ、彼の不条理世界からの脱出というラストに収束していきますので、よりわかりやすい構成になっていました。

劇中繰り返される“キャッチ22”ですが、由来はアメリカ軍の軍規第22項から。冒頭でご紹介した内容なのですが、これ自身、実際に存在する規則なのかどうかも、実は定かではないと言われています。ですがまあここから派生して、矛盾する複数の事柄を同時に内包する、パラドキシカルな状況を指す慣用句となっているそうですよ。キャッチは“穴”、“落とし穴”と解されます。

劇中出てくる者すべてが、戦場という特殊な場においては、どこか回路の狂った人間ばかり。
いつも腰ぎんちゃくコーン中佐をぶらさげている、司令官キャスカート大佐は、とにかく戦功を上げるため、永久に増え続ける責任爆撃回数を部下に科します。キャッチ22的状況の元凶と思われる彼の行動は、実は、より少ないロス(犠牲)で最大限の効果(武功)を上げようとする、資本主義の精神に則っているのですね。てことは、人から嫌われることはあれ、彼は現代社会の組織の中ではなかなかに優秀な人材かも知れません。
大佐の腰ぎんちゃくその2のマイロは、物資の調達係りに飽き足らず、武功より金銭的成功を目指します。闇マーケットへ兵士達の必要物資まで残らず流し、利益のためならば、敵方国家とも取引を辞さない彼。やがてその商売を一大シンジケート、MMエンタープライズにまで育て上げたマイロは、企業家としては天才的と言ってもいいでしょうね。仲間を犠牲にしても利益を優先する彼は、悪意なんてこれっぽっちも持ってないんですよ。ただ純粋に、資本主義精神に忠実なだけ。そして、エンタープライズの利益が国家の利益につながると信じている。彼もまた、現代社会の中では非常に優秀な人材と言えるでしょう。
オーソン・ウェルズ演じるドリードル将軍は、まるで「不思議の国のアリス」に出てくる、“首を切れ!”女王様のように登場します。なにか気に入らないことがあると、二言めには「処刑しろ」。命がけで戦う兵士達を虫けら以下と断じる一方、自分の欲望にはとっても忠実。戦場にまでお色気むんむんの愛人をはべらせています。周囲にいる人間はすべてイエスマンという、これまた資本主義組織を別の形で体現する存在ですな。
メイジャー(英語で“少佐”の意)大尉は、司令官のきまぐれでメイジャー少佐に格上げされてしまう、悲劇の(笑)軍人です。それまで部隊の洗濯しかしたことがなかったというのに、いきなり隊長に任命されてしまい、なにをすればいいのかわからずオロオロ。結局彼もまた、自分が部屋にいるときは誰にも会わず誰の命令にも従わないが、自分が留守のときだけ来客に接するという、キャッチ22的状況を自ら作り上げ、姿を隠してしまいます。
そんな上官たちにこき使われる身のヨッサリアンはじめ、ドブスやアーフィ、ネイトリー、オーアたち。戦争で命を落とすのは、いつだって彼ら前線に飛ばされる兵士達です。永久に増え続ける爆撃回数の中で、真実、気が狂う恐怖に翻弄されていると言えるでしょう。劇中マトモなのは彼らと牧師タプマン、ダンビー少佐でしょうかね。でも、戦場で圧倒的な権力を誇る上官たちの前では、彼らの常識なんて吹けば飛ぶよな頼りないものです。ならばいっそ常識を捨て去って、権力に日和った方が楽というもの。ネイトリーが惚れたイタリア女のいる娼館の主は、一見すると主義や正義感というものを持たない軽蔑すべき日和見主義とも思えます。でも、実際の歴史の中で、強大国家に翻弄されてきた弱小国家は、状況によってより有利な国家の側にくっついて、しぶとく生き残っているわけで、そういう日和見主義が悪いと断罪することはできないでしょう。これもまた、キャッチ22的不条理。
仲間であるはずのマイロの契約遵守のため、ネイトリーは爆撃の餌食となり、司令官を暗殺しようとした気狂いドブスも本当に発狂し、また、恋人ルチアナもマイロの傘下に入ってしまいます。いよいよ孤独になったヨッサリアン。アーフィがセックスに応じなかった娘を殺しても、逮捕されるのは外出許可を持っていないヨッサリアンであるという矛盾。ここにきて“キャッチ22”は、戦場を離れて世の中のすべての不条理を生み出す恐るべき化け物となったのですね。そして本来の意味を置き去りにして、“キャッチ22”という言葉とそれが生み出す状況だけが一人歩きするようになったのです。また、本当にあるかどうかもはっきりしない“法律”の名において、キャッチ22そのものが、すべて正当化されてしまう恐怖。
キャッチ22は資本主義体制の中で具現化しますが、最終的にその体制そのものを乗っ取り、キャッチ22=資本主義という図式すら完成してしまうのですね。そんな蟻地獄のような状況を、ナンセンスと笑い飛ばすことは出来ないと思います。結局は、いち早く軍隊を欺き、“キャッチ22”から脱走を図っていたオーアが一番賢かったということでしょうか。

では、ラストのヨッサリアンの脱走は、どのように解釈すればいいのでしょうね。過酷な体験を経て彼が到達した結論が、“人間の尊厳を守ること”だったということでしょうか。しかし穿った見方をすると、これは“戦争”になんらかの重要な思想を見出そうとする、幾分感傷的な結論のようにも思えます。今では、戦争の形態も意味合いも昔と違って様変わりしましたし、なにより世界情勢が、この作品が製作された頃とは大きく変わってしまいました。
そこで、彼の行く末には絶望しかなく、結局死なない限りキャッチ22世界からは逃れられないのだという空恐ろしさだけが残ることになります。だってそうでしょう、姿なきキャッチ22的状況というのは、なにも戦場に限ったことではなく、社会の中のどこにでも存在するのですからね。

監督はマイク・ニコルズです。ブロードウェイで舞台演出家として名を上げた後、「卒業」(1967年製作)、「イルカの日」(1973年製作)、「ワーキング・ガール」(1988年製作)、「クローサー」(2004年製作)、「エンジェルス・イン・アメリカ」(2004年製作。テレビ・ミニシリーズ)など、数々の作品で批評的成功と興行的成功の両方を手にしました。彼の作風の特筆すべき点は、重いテーマを扱っていても娯楽性を失わないことです。作中では、なかなかにクセのあるキャラクターが登場し、屈折したドラマが展開されるのですが、自己満足に陥らないだけの余裕があるんでしょうね。そんなところがまた、俳優に信頼されるのでしょう。彼の作品に出演している俳優達は、いずれおとらぬ芸達者ばかり。「キャッチ22」にも、若き日の実力派俳優たちが大挙して出演していましたね。

キャッチ=22 上 (ハヤカワ文庫 NV 133)
早川書房
ジョーゼフ・ヘラー

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キャッチ=22 下 (ハヤカワ文庫 NV 134)
早川書房
ジョーゼフ・ヘラー

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さて、最後に映画の原作となった小説のご紹介を簡単に。この作品は、戦後アメリカ文学の中でもひょっとしたら最高峰の部類に入るのではないかと評されている、ジョーゼフ・へラーの手になるものです。
私自身は、映画を観てから原作を読むという順番を辿ったのですが、いやはやなんというか、よくぞこの小説を映像化しようという気になったな、というのが正直な感想ですね(笑)。私が持っているDVDでは、マイク・ニコルズ監督とスティーヴン・ソダーバーグ監督のコメンタリーが収録されていましたが、それを聞くとやはり、原作の持つ難解さをいかに映画的に解釈するかで苦労したようですね。さもありなん。しかし、戦争にまつわる恐怖や悲しみ、狂気といった複雑な要素を、これだけブラックな笑いで風刺しえた作品も他に例を見ないでしょう。この小説がベストセラーとなった背景には、アメリカが初めて経験した“負け戦”ベトナム戦争の影響があったことは否めません。この戦争こそが、アメリカ人に“挫折感”と“価値観の崩壊”を知らしめたものですからね。ですがそれ以上に、愚かで矛盾だらけで愛おしい人間どもへの共感が作品の根底にあるからこそ、小説はたくさんの支持を集めることができたとも思うのです。
表題は“不条理なこと”の代名詞にもなりましたが、作品が身をもって提示するこの不条理は、私達が今この瞬間を生きている世界を、そのまま映し出したものでもあります。映画と共に、原作小説の方もぜひ手にとってみられることをお勧めしますね。9.11テロ以降、ますます混沌とする世界に誰しもが不安を覚えずにいられません。この作品は、複数の価値観が交錯し、新しい秩序誕生への過渡期である今こそ、理解できるものかもしれません。

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