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zoom RSS この、青春の、痛み―エリック・ゾンカと「さよならS Le petit voleur」

<<   作成日時 : 2017/09/26 00:01   >>

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空を飛ぶ鳥のように自由で、かごの中の鳥のようにあがき続ける。…たぶん、それを“青春”と呼ぶ。

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エリック・ゾンカ Erick Zonca

1956年9月10日生まれ
フランス、オルレアン出身

●フィルモグラフィー

2008年『Julia』(監督、脚本)
2000年「愛撫」(脚本のみ)
1998年「さよならS Le petit voleur」(監督、脚本)
1998年「天使の見た夢 La vie rêvée des anges」(監督、脚本)
1997年「Seule」(未)短編
1993年「Eternelles」(未)短編
1992年「Rives」(未)短編

「さよならS Le petit voleur」(1998年製作)
監督:エリック・ゾンカ
脚本:エリック・ゾンカ
撮影:ピエール・ミロン
音楽:ジャン・ジャック・フェラン
出演:ニコラ・デュヴォシェル、ヤン・トレグエ、ジャン・ジェローム・エスポジート、ジョー・プレスティア、エミリー・ラファルジェ他。

オルレアン。パン屋に住み込みで働くS(デュヴォシェル)は、片田舎の毎日変わり映えのしない生活に心底うんざりしていた。ある日、パン屋に遅刻したSは、主人からクビを言い渡される。売り言葉に買い言葉で、主人をののしり、彼は職と住む場所を失ってしまった。恋人サンドラ(ラファルジェ)に不満をぶちまけるS。
「もう人にこきつかわれるのはごめんだ。金持ちの金を利用してやる。俺は大きな事をやってやるんだ」
サンドラは呆れるが、優しくSを諭し、街を出るなら一緒に連れて行って欲しいと頼む。しかしSはサンドラを拒絶する。彼女の家に泊めてもらったSは、サンドラがもらったばかりの給料を盗み、マルセイユに向かった。
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マルセイユでSは、ボクシングジムを根城とする地元のギャング団に入っていた。ジムを経営するオイユ(エスポジート)と呼ばれる男は、大物マフィア、トニー(プレスティア)を兄に持っていた。Sは初めての盗みの仕事でオイユに認められ、家に居候することになる。Sはオイユの使いで毎週ある老女を訪ね、彼女の身の回りの世話をしながらジムでボクシングに打ち込んだ。先にギャング団に入っていたバリュエ(トレグエ)は年も近いこともあり、仲良くなった。バリュエからボクシングやギャング団の仲間のことを教えてもらうS。トニーの娼婦のボディガード役をこなしたSは、トニーからも気に入られる。
一方で、毎週通っている老女には親切に接するS。無言で金を渡そうとする老女を優しくさえぎった。
Sはオイユの元で下っ端仕事をこなしながらも、どこかこの世界に馴染めない自分に苛立ちを隠せない。Sはジムでオイユにボクシングを叩き込まれる。
「俺が怖いか!死ぬ気で殴れ!これが戦いだ!」
あふれ出る苛立ちをボクシングのパンチにぶつけるS。ある日バリュエが階段から落ち、背骨を傷めてしまった。医者からボクシングを止められたにもかかわらず、バリュエはグローブをはずそうとしない。そして、ギャング団の新入り昇格テストを兼ねた試合が行われた。Sの相手はバリュエだ。Sはなんとか上を目指したいばかりに、バリュエの傷めた背中を狙って殴りつける。ブーイングされながらもバリュエを打ちのめしたS。結局Sはトニーのそばで運転手の仕事をあてがわれる。代わりにバリュエは娼婦のボディガード役に降格だ。
Sはトニーについて運転手をするが、トニーはイカレた男だった。銃を持ってライヴァルを消そうとするトニーに振り回されながら、あげくに激昂した彼に暴行されるS。
ギャング団の仲間とある豪邸に盗みに入るS。ところが急に警察官に囲まれてしまい、逃げ遅れそうになったSはオイユを窓から突き落とし、なんとか逃げ延びる。オイユが警察に捕まったため、仲間からは裏切り者扱いされ、ついに帰る場所を失うS。街をふらふらとさまよいながら、彼は自然とあの老女の元へと近づく。老女が銀行で金を下ろしたのを確認したSはハンカチで顔を隠し、彼女に襲い掛かる。バッグを盗もうと鉄の棒を振り上げるS。はずみで彼女のかつらが取れ、驚いたSはなにも盗らずに逃げ出してしまう。再び街へさまよい出たSは、ギャング団の仲間に後ろから首を切りつけられる。首からおびたただしい血が噴出した。…

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ある大きなパン工場。Sはここで熱心に働いていた。初めてもらった給料から金を取り分けて、封筒に入れる。あて先はかつての恋人サンドラ宛だった。そして今日も彼はパンを手際よくこねる。その表情はとても安らかであった。

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ゾンカ監督は、長編デビュー作「天使の見た夢」で98年のカンヌ国際映画祭において、ヒロインを演じた二人の女優に主演女優賞W受賞をもたらしました。また、99年度セザール賞でも作品賞を受賞するなど、鮮烈な監督デビューを飾ったのです。「天使の見た夢」は日本でも公開され、高く評価されました。
続く長編第2作目がこの「さよならS」です。ゾンカ監督自身がオルレアン出身ということもあってか、主人公のSの設定には多分に監督の青春時代が反映され、静かな田舎町オルレアンでエネルギーを持て余し鬱屈とするSの姿は非常にリアルであります。また、主人公には名前がなく、最後まで彼は「S」とイニシャルで呼ばれるのですね。これはおそらく、彼がいまだ確固とした自我を持たず、人生になんら目標を見出せないでいることの暗喩でしょう。まあ誰でも、若くてこれからの人生が永遠に続くとさえ思える時期ってあるわけです。そんなときって、突如人生というものに不安を覚え、反面、若さゆえにまだまだ自分には可能性があるんだと揺れ動くものです。まだなにものにもなってない自分に焦りを感じつつ、まだ見ぬ未来をバラ色に夢想する…。
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Sもそんな典型的な若者の悩みをもつ青年であります。ところが彼は、あふれるエネルギーと貪欲な向上心の矛先を悪の道に求めてしてしまいます。労働者として社会の底辺の生活しか知らない彼にとって、手っ取り早く社会をのし上がっていける方法は、犯罪に手を染めることしかなかったのでしょうか。
港町で少々荒っぽいイメージのあるマルセイユは、オルレアンとは対照的で、常に太陽の光がじりじり照りつけています。また、劇中にあるようなマフィアも実在するようですね。ここでSは、ギャングとしてのし上がることを夢見ます。それはまさにマルセイユの太陽をその身に浴びること。Sはなかなかにふてぶてしい度胸で、友人に対しても臆せず卑怯な手を使ってのし上がりますが、それは実はSの本質ではないことがわかります。仕事とはいえ、身体の不自由な老女の世話をきちんとしていることや、彼女には礼儀正しく接している描写を見ても明らか。また、犯罪に首までどっぷり漬かって暮らすギャング仲間からも浮きがちなSの苛立ちは、彼の真の居場所がそこにないことを現しています。
本物の犯罪者トニーの狂気を目の当たりにして、いよいよSはマルセイユの太陽が作り出す影の部分に気づいていきます。自分の理想と、大きな犯罪とはいえ所詮こそ泥の延長である現実のギャップに軋轢を感じるわけですね。
結局Sは仲間を売ることになり、金をもうけるどころか、住処さえ失い自棄になります。運命はもう一度彼の良心を試します。親切に接していたはずの老女を襲わせるのですね。あわや彼の初めての犯罪が成立してしまう…というところで、悪に染まりきることができない自分を露呈するS。
元のパン職人として新しく働き始めた彼は、これからどういう人生を歩んでいくのでしょうか。もう自分の状況に閉塞感や焦燥感を感じることなく、新たな一歩を踏み出せるのでしょうか。闇雲に実体のない「大きなこと」を目指す人生ではなく、他ならぬ自分が納得できる人生。ラストのSの表情にはその可能性が感じられますね。監督と観客の希望もそこにあるのです。
この作品は、Sの過ちを弾劾するのが目的ではありません。また、社会的なメッセージを発信するのでもありません。誰もが経験する通過儀礼として「青春」のある一時期を、観客とともに静かに見つめなおし、成長することの意味を問い直すこと―を促しているのでしょう。
“S”とは、人が誰しも味わう青春の焦燥そのもの。S役を好演したニコラ・デュヴォシェルのナイフのように怜悧な演技と、その影に隠された繊細さによって、この作品は忘れがたい印象を与えてくれます。

さてそのニコラ、映画デビュー作であるところの「さよならS」では、俳優としてはほぼ素人に近い状態であったそうです。かのジェームズ・ディーンを髣髴とさせる甘いマスクに、瑞々しさと反抗心を同居させた存在感で、フランス映画界に彗星のごとく登場しました。その後の出演作は、日本で劇場公開されたものは少ないですが、主にフランス内で順調にキャリアを積んでいるようです。私生活では、「情痴 アヴァンチュール」で共演した女優リュディヴィーヌ・サニエと意気投合、結婚こそしていないものの、彼女との間に娘を1人もうけています。
そして、単館系ながら劇場公開された出演作「アヴリルの恋」では、見習い修道女であるヒロイン、アヴリルに恋する気のいいトラックの運ちゃんに扮しています。赤ん坊のときにトラピスチヌ修道院の前で捨てられていたアヴリルは、以来自分は天涯孤独だと思い込んでいました。彼女はもう21歳、正式に修道女になるための儀式を間近に控えていました。ところが先輩修道女のべルデナットが、彼女に血の繋がった双子の兄がいることを教えます。ベルナデットは、儀式に要する2週間という期限を兄探しの旅にあてるよう勧め、アヴリルは生まれて初めて修道院の外の世界に出て行くことになるのですね。
ニコラ演じるピエールは、アヴリルが旅の途中で知り合うトラックの運転手。足のない彼女を案じ、彼女の兄がいる場所まで連れて行ってあげるという役どころです。世間知らずのおぼこいアヴリルが、外の世界で成長していく様子を爽やかに描く青春ドラマであると同時に、修道女の旅といういささか変わった設定のロード・ムービーとしても面白い作品でした。アヴリルは兄と再会し、兄もまたアヴリルの存在を喜んで受け入れます。アヴリルは、たった2週間の休暇の間、かけがえのない家族と共に過ごす夢のようなひとときを噛み締めます。しかし休暇が終わったとき、彼女は、これからの人生をどう生きるのかという重要な岐路に立たされ、そして実に彼女らしい選択をするのですね。「さよならS」のときとは別人のような(笑)、穏やかで優しげな表情のニコラと共に、なかなか美しい余韻の残る佳作でありました。

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ニコラ・デュヴォシェル Nicolas Duvauchelle

1980年3月27日生まれ
フランス、パリ出身

ニコラ自身は、この作品の後も順調に出演作を重ね、現在のフランス映画界を担う希望の星と謳われるまでに成長。結婚もし、娘さんも誕生。公私共に充実した人生を歩んでいるようです。良かった良かった。

●フィルモグラフィー Filmography

2016年『Orpheline』
2016年『Je ne suis pas un salaud』
2015年『Le Combat ordinaire』
2015年『La Rivière sans fin』
2014年『Maintenant ou jamais』
2014年『Bodybuilder』
2013年『Pour une femm』
2012年『Parlez-moi de vous』
2012年『Comme des frères』
2012年『Mariage à Mendoza』
2011年『Les Yeux de sa mère』
2011年『La Fille du puisatier』
2011年『Polisse』
2010年『La Blonde aux seins nus』
2010年『Stretch』
2010年『Happy Few』
2009年『La Fille du RER』
2009年『Les Herbes folles』
2009年『White Material 』
2008年『Secret défense』
2008年『White Material』
2007年『Deuxième souffle, Le』
2007年『À l'intérieur』
2006年『Grand Meaulnes, Le』
2006年「アヴリルの恋」
2005年「情痴 アヴァンチュール」
2003年「スノーボーダー」(未)
1998年「さよならS Le petit voleur」

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