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zoom RSS 不滅のエンターテイメント―「バンド・ワゴン The Band Wagon」

<<   作成日時 : 2017/02/25 22:29   >>

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全くの私事で申し訳ありませんが、こんな辺鄙な個人ブログでも、月日の流れに従い、訪れる人の移ろいを感じることが出来ます。立ち上げた当初から長くお付き合いいただいている方もいれば、時間の経過と共に縁遠くなってしまった方も。かと思えば、新しく遊びに来てくださっている方だっておられるでしょう。つまり何事も、未来永劫変わらぬものなどないわけですね。

それが映画スターのような人気商売ともなれば、なおさらのこと。いっときチャンスを得てちやほやされたとしても、大衆は次の瞬間にはまた新たなスターに群がっていきます。

「バンド・ワゴン The Band Wagon」(1953年製作)
監督:ヴィンセント・ミネリ Vincente Minnelli
製作:アーサー・フリード
脚本:ベティ・コムデン&アドルフ・グリーン
撮影:ハリー・ジャクソン
音楽:ハワード・ディーツ&アーサー・シュワルツ
編曲:ロジャー・イーデンス
音楽監督:アドルフ・ドイッチ
出演:フレッド・アステア Fred Astaire (トニー・ハンター)
シド・チャリシー Cyd Chariss (ガブリエル・ジェラルド/ギャビー)
ジャック・ブキャナン(ジェフリー・コルドヴァ)
オスカー・レヴァント(レスター・マートン)
ナネット・ファブレイ(リリー・マートン)
ジェームズ・ミッチェル(ポール・バード)他。

数々のミュージカル映画でトップスターとなったトニー・ハンターは、今や私物をオークションにかけてもひとつも売れないほどに落ちぶれていた。失意の彼をニューヨークに呼んだのは、ブロードウェイ時代からの古い友人であるレスターとリリーのマートン夫妻だった。彼を主演に想定して、「バンド・ワゴン」と題されたミュージカル・コメディの脚本を書き上げたという。マートン夫妻はこの企画をぜひとも成功に導くべく、現在ブロードウェイで大胆な古典劇で注目を集める演出家ジェフリー・コルドヴァを仲間に引き入れることを考えていた。

果たして、舞台復帰にあまり気乗りのしないトニーと、マートン夫妻、コルドヴァは打ち合わせの席を持つ。夫妻のプロットでは、トニー演じる主人公は児童書を書くことに誇りを持っているのだが、背に腹は変えられず、金のために残酷なノワール小説にも手を出すという設定だった。夢溢れる児童書と暗黒小説の狭間で煩悶する主人公を、シニカルに笑い飛ばそうという内容だったのだが、コルドヴァは、自分の手がける舞台をどうしても高尚な芸術作品にしたい男だった。そこで、マートン夫妻の脚本に勝手にファウストの解釈を織り込み、かつ、バレエ界からもダンサーを招いて、画期的な現代的音楽劇にしてしまう。呆然としたのは夫妻だけではなく、トニーもだ。企画から降りようとする彼を、しかしコルドヴァは“新しいものに挑戦しなければ、君は永遠に過去の遺物だ”と叱咤する。なにしろコルドヴァは演劇界では知名度も抜群であり、出資者からの信頼も高い。皆彼のアイデアを受け入れることになった。

コルドヴァの要請に従って、アメリカン・バレエ界のプリマドンナ、ガブリエル・“ギャビー”・ジェラルドがトニーの相手役に抜擢された。ダンスの振り付けのために、ギャビーの恋人でバレエ界の振付師ポールも呼ばれた。だがトニーは彼女の身長がいささか高いことを気に病み、またバレエを知らない引け目から彼女を敵視してしまう。ギャビーもギャビーで、伝説的なダンサーであるトニーとの共演に気後れするあまり、彼に対して意固地な態度を取るのだった。波乱含みの企画はこうして見切り発車され、来る日も来る日も難しい振り付けの稽古と、毎日変わる脚本の見直しに明け暮れるようになる。未知の領域に挑戦することへの疲労とストレスから、ある日トニーはついに爆発し、稽古を放り出して役を降りることを宣言した。脚本の変更に次ぐ変更で、マートン夫妻の仲も一触即発状態になってしまう。しかし3週間後に開幕を控えた状態で、トニーに去られるわけにはいかない。周囲に説得されたギャビーは、嫌々トニーに自分の子供じみた態度を謝罪に行く。意地っ張りな2人はまたもや大ゲンカを繰り広げるが、トニーもギャビーも結局お互いに誤解しあっていたとわかり、ようやくそれぞれへのわだかまりを解消した。
主役2人にコミュニケーションが不足していたのは確かで、彼らは夜のニューヨークの公園へ馬車に乗って散歩に出かけてみた。劇場という狭い箱の中から解放され、公園を散策する2人は次第に気分が高揚するのを感じる。ダンスは技術だけの問題ではなく、お互いへの信頼感がいかほどかによって左右される。高まる感情の導くまま、かつてないほどの呼吸で流れるような美しいダンスを舞う2人。そのステップは一度たりとも止まることなく、ギャビーはごく自然にトニーにその身を預け、トニーはしっかりと彼女の身体を支える。彼らは踊りを通じてお互いの魂を理解したのである。いよいよ開幕を明日に控え、混乱する舞台裏。大掛かりな装置が誤作動し、スモークが火事のごとくもうもうと立ち上る中、トニーもギャビーも連日徹夜で最後の確認に励む。

泣いても笑っても新解釈版「バンド・ワゴン」は、ニュー・へイヴンで幕を開けた。コルドヴァの口車に乗せられて多額の出資をした人々が、こぞって舞台初日に駆けつける。しかしながら、初日の結果は悲惨なものだった。コルドヴァのあまりに大仰かつ現実離れしたファウストは、観客の理解を遥かに超えるシロモノであり、悪魔や地獄が闊歩する陰鬱な舞台がはねると人々は逃げるように劇場を後にした。もちろん興行は大失敗。トニーは失望しながらも、脇役を務める大勢の若手ダンサーたちが開いていたパーティーに偶然入り込む。興行は失敗だったが、楽しい歌を元気いっぱいに歌う彼らに触発され、すっかりやる気を取り戻したトニー。いくら芸術のためだとはいえ、舞台から“エンターテイメント”を奪ってはいけない。今回の失敗はまさしくそれだ。舞台は楽しく、夢を見られる場所でなければ。いつのまにかパーティーに加わっていたギャビー、マートン夫妻も同意見だった。彼らは結束し、「バンド・ワゴン」を元のアイデアに戻して再演する意欲を燃やす。コルドヴァも己の非を認め、全面的にリーダーシップをトニーに託して新生「バンド・ワゴン」に再参加した。金蔓がいなくなってしまったので、公演資金を捻出するため、トニーは唯一の財産だった本物の古典絵画を売り払う。しかし振付師ポールは、仲間の元に残ると主張するギャビーを1人置いてバレエ界に帰って行った。

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明るく楽しくワクワクするという、かつてのボードヴィル・スタイルを復活させた「バンド・ワゴン」を引っさげ、トニーたちは地方都市を巡業してまわった。どこでも「バンド・ワゴン」は大好評をもって迎え入れられ、日増しに熱狂は高まるばかり。ギャビーの歌も冴え、トニーのみならずコルドヴァやリリーの歌とダンスも見事であった。ニューヨーク凱旋公演を直前にして、トニーはギャビーへの日増しに募っていく想いを胸の内に収める。ロートルは、恋愛の舞台からは優雅に身を引くべきだ。まだ若い彼女に負担をかけてはいけないから。

皆の希望を乗せた「バンド・ワゴン」ニューヨーク公演は、トニーはじめ出演陣の渾身の演技で大成功を収める。成功に終わった初日を祝うべく、クラブに繰り出そうとしていたトニーは、仲間が彼のためにサプライズ・パーティーを準備していたことを知った。皆を代表してギャビーが彼の前に進み出、彼への愛を打ち明ける。「バンド・ワゴン」の興行はロングランを記録するだろう。彼女のトニーへの思慕も、もちろん永遠にロングランだ。エンターテイメントを創造する喜び、愛情を勝ち得る喜びは、トニーの中でひとつに溶け合っていった。

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この作品で、アステア扮する落ち目のミュージカル・スターに再び活力を与える新進バレリーナを演じていたシド・チャリシー(シャリース)。2008年6月17日、87歳で他界しました。フレッド・アステア、ジーン・ケリーという2大スターを看板にしていたMGMで、その双方とも共演した幸運に恵まれた彼女は、類稀なる美貌と脚線美に恵まれていました。特に、細すぎず、かといって太すぎず、彼女が鍛えられたダンサーであることを言外に証明する、優雅であると共にダイナミックな脚には、 1952年に500万ドルの保険が掛けられたことでも記憶に残ります。それまでのピンナップ・ガールの代表格であったベティ・グレイブルもびっくり。しかし、この映画を観れば、その長くてエレガントな脚を存分に伸ばして誇らしげに踊る彼女のダンス・シーンを観れば、500万ドル以上の価値がそこにあることがわかりますね。

「バンド・ワゴン」は、MGMのみならず、ハリウッドのミュージカル映画の歴史の最後を彩る作品となりました。この当時、既にテレビの時代がアメリカに到来しており、映画は民衆の娯楽の王様という地位を脅かされていました。往年の、心も身体も踊り出すような、エンターテイメントの代名詞であったミュージカル映画も、50年代後半には衰退してしまいます。アステアもチャリシーも、ダンスを封印して活躍の場を他に模索しなければならなくなりました。

自社の大スターであるアステアに、落ち目のダンサーなんていう自虐的な役回りを振ってまで、「バンド・ワゴン」が企画された背景には、このようなアメリカのエンターテイメント業界の変容があったと思われます。監督は、ジュディー・ガーランドの旦那さん、あるいはライザ・ミネリのお父上としても知られるヴィンセント・ミネリ。製作は、「巴里のアメリカ人」を手がけた人物でチャリシーを見出した恩人でもあるアーサー・フリード、脚本は「雨に唄えば」のライター・チーム、ベティ・カムデン&アドルフ・グリーン、音楽は「ショウ・ボート」のアドルフ・ドイッチェ、歌曲は作詞にハワード・ディーツ、作曲にアーサー・シュワルツ、ミュージカル振付はマイケル・キッドという陣容。これを見れば、つまり今作が往年の大ヒットミュージカル映画の栄光を再び取り戻さんと企画されたものであることがわかるというもの。忘れられた過去のスターが、今様の流行を追うも失敗、昔のスタイルで再び脚光を浴びるという筋立ては、新しい時代に移行しようとしていたハリウッドに対するアンチテーゼであったでしょう。

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これぞハリウッド、これぞエンターテイメント(ザッツ・エンターテイメント!)という粋を、時代におもねることなく炸裂させたこの作品は、ストーリーの陳腐さなどといったささやかな瑕を吹き飛ばしてくれます。そう、素晴らしい楽曲とダンス、真にプロフェッショナルなパフォーマンスといった、ミュージカルの基本中の基本を観客の網膜に焼き付けてくれるのですね。アステアのダンスも、彼が得意とし、また彼の代名詞でもあった優雅さとは一味違う魅力を発揮しています。若手のチャリシーと組むことで、当時のモダンな振り付けにも無理なく適応し、新たなエレガンスを醸しだすことに成功していますね。白眉は、やはりトニーとギャビーが踊りながらお互いを知る“ダンシング・イン・ザ・ダーク”のシークェンスでしょう。呼吸をするように自然に、流れるように優雅に、傍目にはわかりにくい難しいリフトやステップを絡みつかせる2人のダンスは、コンビネーション・ダンスの真髄であるように思います。

"Girl Hunt Ballet" by Fred Astaire and Cyd Charisse from 'The Band Wagon' (1953)


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また、アステアがハンフリー・ボガードのようなキャラクターを演じる寸劇仕立ての“ガール・ハント・バレエ”も、日常の動作とダンスが絶妙に組み合わさった新鮮な驚きを覚えます。今見ても充分に刺激的な名人芸は、私ら凡人に実に幸福な陶酔をもたらしてくれるのですが、こういったシークェンスが後続のダンスに与えた影響は大きかったでしょうね。アステア、チャリシーの高度な技を引き立たせて、レヴァントとブキャナン、ファブレイのツボを押さえたコミカルな演技も光ります。彼らは、この作品では笑いに徹して作品にアクセントを加えるという、地味ながらプロフェッショナルな仕事は見事。

“That's Entertainment” from 'The Band Wagon' (1953)


個人的に大好きなのは、「バンド・ワゴン」興行のため初打ち合わせで、アステア、レヴァント、ブキャナン、ファブレイが生き生きと歌い踊る“ザッツ・エンターテイメント”と、まさに大団円に相応しいラストの〆め、出演者全員で想いのたけを込めて歌う同曲です。これこそが後世に伝えたいハリウッド・エンターテイメントなのだという、製作陣の誇りと心意気を感じますね。確かに人の心は移ろいやすいですし、時代の変遷に従ってもてはやされる流行も変わっていきます。ですが、ここには、時代を経ても変わらないはずの“エンターテイメント”の魂が確かに宿っているように思われてなりません。

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今作のもうひとつの興味深い点は、作品全体がブロードウェイという演劇界のバックステージものになっているところでしょう。「バンド・ワゴン」という作品を上演するのに携わるあらゆる人々… 小道具係や装置係、照明係等にいたるまで、黒子として舞台を支えるスタッフの情景を、愛着を込めて克明にスケッチしているのです。表舞台しか目にしない私たちにとっては、初日を目前に控えて不安と期待の入り混じる舞台裏の緊張感を味わえるのは、またとない体験です。ヴィンセント・ミネリ監督自身、ブロードウェイでの経験が豊富な演出家であるために、ここはどうしても拘りたかった点ではないでしょうかね。

ミネリ監督の拘りといえば、作品冒頭でトニーがニューヨークに降り立ち、様変わりしたブロードウェイの様子を目の当たりにして、年月の流れを痛感するシーン。通りの片隅で靴磨きをしている黒人青年と、まるでイタズラを企む子供のようにノリノリで踊り始める一連の流れが素晴らしい。青年とトニーは、通りの屋台やアトラクションを冷やかしながらダンスしているのに、その周囲を歩く通行人は誰も足を止めようともしないのですよ(笑)。なんでもないシーンのように見えますが、いかにもニューヨークらしさが感じられて、思わずにやりとしてしまいますね。そうそう、この“靴磨きダンス”シーン、なんと長〜い1カットで撮られているそうです。最近のミュージカル映画…特に某「シ●ゴ」では、出演者の下手クソなダンスをごまかすためにやたらと細かいカット割りにしていて、目障りなことこの上ありませんでした (笑)。ですが、この作品ではそんなごまかしは一切ありません。複雑で難易度の高い“本物の”ステップを、1カットで見せ切ってしまいます。高い技量とダンスに賭ける大きな情熱がなければ、ありえない奇跡ですよ。ここも、私のお気に入りのシークェンスです。

ミネリ監督はまた、映画ならではの表現方法にも個性を発揮しています。テクニカラー特有の目の覚めるような明るい映像に、赤色や緑色といったカラフルなモチーフ・カラーを巧みに配して登場人物の内面を象徴したり、人物配置に演劇的な効果を加味してその場面の情景を言外に語ってみたり。ダンス・シーンばかりを立体的に強調するのではなく、役者の演技にも焦点を当て、シーンを丹念に構築していると感じました。場面ごとに切り替わるセットの美しさはいわずもがなですね。ミネリ監督があらゆるジャンルの映画に精通したと言われるのも頷ける、熱の篭もった演出でした。

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また、歌とダンスのパートと、ストーリーを語る本筋との融合もあまり違和感がなく、無難に収まっている印象を受けます。脚本を担当したこちらも名コンビ、コムデン&グリーンの手練れを感じますね。


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