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zoom RSS 愛を請う人―「さすらいのカウボーイ The Hired Hand」Part1

<<   作成日時 : 2016/07/19 19:22   >>

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家は人生の出発点で、大切な場所だ

「さすらいのカウボーイ The Hired Hand」(1971)
監督:ピーター・フォンダ Peter Fonda
製作:ウィリアム・ヘイワード
脚本:アラン・シャープ
撮影:ヴィルモス・ジグモンド
音楽:ブルース・ラングホーン
出演:ピーター・フォンダ Peter Fonda(ハリー・コリングス)
ウォーレン・オーツ Warren Oates(アーチ・ハリス)
ヴェルナ・ブルーム Verna Bloom(ハンナ・コリングス)
ロバート・プラット(ダン・グリフィン)
ミーガン・デンバー(ジェニー・コリングス)
スヴァーン・ダーデン(マクヴェイ)
リタ・ロジャース(メキシコ女)
アン・デュラン(ソレンセン夫人)
テッド・マークランド(ルーク)他。

ハリーの彫りの深い痩せこけた顔には疲労の色が滲み出ていた。

彼は、10歳年上の妻と生まれたばかりの娘を捨て、既に7年もの間アメリカ中をさすらっている。あてのない旅に出てから相棒となったアーチよりも若いはずだが、ハリーの顔にはおよそ生気といったものが感じられない。ハリーやアーチよりもさらに若い青年ダンを加えた3人のさすらい人は、今夢の国カリフォルニアを目指している。彼らの行く手を阻んだ川は、その水面を日の光に乱反射させながら彼らを幻想の世界へといざなっていた。生まれて初めて川を見たという内陸出身のダンは、大はしゃぎで衣服を脱ぎ、西部の埃っぽい空気に汚れた身体を輝く川面へと投げ出した。ハリーはダンの歓声にも一向に耳を貸さず、黙々と釣り糸を垂れる。アーチは火を起こし、わずかな携帯食料で男たちの食卓を整える。それは、夢を求めてあちこち旅をする流れ者の日常風景であり、ハリーやアーチにとっては嫌というほど慣れ親しんだ習慣だった。
ダンは目を輝かせ、まだ見ぬカリフォルニアの先にある輝かしい未来を語る。青年にとってはこの川での行水も、祝福された未来の前兆なのだろう。塩がないため、味もそっけもない食事をつつきながら、しかしハリーの心は、7年間で汚泥のように溜まった根無し草の生活への疲労に膿みきっている。口には出さないが、彼の思考はややもすると、7年前置き去りにしてきた家庭のことでいっぱいになってしまう。相棒アーチは、早くからハリーの心境の変化に気づいていた。アーチはダン同様、妻も子供ももたない気ままな身の上で、帰るべき家も持たない。自分は今までそれを苦痛に思ったことはなかったが、若くして家を飛び出し、追っていたはずの夢がただの幻だったと思い知らされたハリーはそうではないのだろう。家庭の枷を厭うていた男が、惨めな流浪の果てに再び家庭を恋しがるようになるとは皮肉な話である。ダンが、ハリーの釣り糸になにか大きなものが引っかかっていることに気づいた。なんと少女の水死体だ。白人で金髪、ちゃんとしたドレスさえ身に着けた美しい死体。慌てて助けようとするダンを制し、ハリーは黙って死体に絡みついた糸を切った。死体は再び川の流れの中に消えてゆく。ハリーの娘も、今はこれぐらいの年齢になっているであろうか。ハリーの無慈悲な行動に怒るダンに、ハリーは素っ気なく答えた。
「引き上げればバラバラになるだけだ。どうせ助けられん」
馬上の人になった彼らは、少女の遺体を抱きこんだ三途の川を渡っていった。

食料と馬の蹄鉄の調達のため、3人は存在を忘れられたかのような、うら寂れた村デル・ノルテにやってきた。これといった産業も娯楽もなにもないデル・ノルテは、昼間から大の男たちが安酒をくらいつつカード遊びに興じるような場所だ。女の姿さえ見かけない。ここはマクヴェイという男の支配下にあったのだ。ハリーは嫌な予感を堪え、鼻を刺す臭いのする汚れた酒場へ入る。アーチとダンも一緒にがたつくテーブルについた。ダンはまたしてもカリフォルニアの素晴らしさをぶつ。ハリーはそれを遮るように、自分は家に戻ると宣言した。今更カリフォルニアに向かったところで、そこに、夢見たものは何もないだろうことを7年間の経験で知ったからだ。
「家は人生の出発点で、大切な場所だ」
まだ若いダンにはハリーの変心が理解できない。しかしアーチは、ついにこのときが来たと腹をくくる。ハリーとはウマが合って7年もの間共に過ごしたが、いつかはこの馴れ合いも終わるときがくる。親友の気持ちを尊重するため、アーチはダンと共にカリフォルニアへ行くことを選択した。安酒場の安酒は、さらに苦い味になった。

ところがその晩、久しぶりに女を抱こうと夜の町に繰り出したダンが、なんと首を撃たれた状態でくだんの安酒場に姿を現した。驚くハリーとアーチに掻き抱かれながら、断末魔の瞬間、青年はここにいるはずもない母親の名を呼んで事切れた。ダンのすぐ後に現れたマクヴェイは、手に拳銃を握っている。英語の話せない彼のメキシコ人妻をダンが暴行しようとしたので、やむを得ず撃ったというのだ。酒場にいる連中も、裸同然の格好で震えるメキシコ女を横目に、したり顔で同意する。だがそんなことで騙されるハリーたちではない。おそらくこのマクヴェイは何か目的があってダンを殺したのだろう。地平線に太陽が沈み、ハリーとアーチの周りを夜の帳が包む頃、2人はダンの遺体をねんごろに埋葬した。青年はとうとう、憧れのカリフォルニアの太陽を見ることなく、ここで骨を埋めることになってしまったのだ。夢がまたひとつ無に帰した。ハリーの倦怠は頂点に達した。明日、ダンを殺したマクヴェイにお礼参りをした後、まっすぐ家に帰る。妻が自分を受け入れてくれるとは到底思えないかが、それでも、帰りたい…。アーチもハリーに同行することを決意した。
翌日、ハリーとアーチはマクヴェイの家に近づいた。ダンが乗っていた馬が、なぜか軒先につながれている。やはりマクヴェイは、ダンの馬欲しさに卑劣な罠を仕組んだのだ。アーチは密かに玄関に回り、見張りとして立っているであろう手下の注意を引く。その隙にハリーの方は、マクヴェイが惰眠をむさぼっている寝室の窓外に隠れる。2人が同時に動いた。アーチは手下を殴りつけ、ハリーは窓からマクヴェイめがけて発砲した。弾は仇の両足の裏を貫通した。狂ったように悲鳴を上げるマクヴェイは、震える手に拳銃を握ったが、それがハリーたちを脅かすことはなかった。ハリーとアーチは馬に飛び乗り、緑濃い草原を駆け抜け、一路ハリーの家へと向かっていった。道中アーチは、ハリーに妻ハンナの人柄について訊ねる。しかしハリーに答えられたことは、ハンナが自分より10歳も年上であったことぐらい。いくら1年と9ヶ月しか一緒に暮さなかったとはいえ、考えてみれば、ハリーはハンナのことをまるでわかってはいなかったのだ。1年9ヶ月も一緒にいれば、自分の馬のことだって大概のことは知れる。アーチは、当時のハリーがいかに家庭を顧みていなかったかを実感し、密かに嘆息する。
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林を抜け、砂丘を越え、なだらかな平原が続く片田舎に、ハンナの家はあった。その農園は、ハンナが幼い娘ジェニーと共に女手ひとつで守ってきたものだ。人手の足らなくなる農繁期には流れ者の作業員を雇っていたが、どうしても手入れは行き届かないのだろう。壊れたままの道具がそのままであったり、荒れかけた畑もあった。ハリーはそれを横目で見ながら、まっすぐハンナの出迎える玄関に向かう。見知らぬ流れ者2人を訝しげに見つめていたハンナは、片方が自らの夫であることを認め、顔色を変える。ジェニーには父親は死んだと教え込んでいるのだ。ハンナは冷ややかなまなざしでハリーを睨み、今更何の用だと問うた。ハリーもいかなる弁明もせず、夫としてではなく、ただの使用人として自分を雇って欲しいと懇願した。心を入れ替えてここで働く。その働き振りを見て、自分の真意を判断して欲しいと。嵐に翻弄される小船のように揺れ動く内面をひとまず押さえ込み、ハンナは硬い表情で納屋に馬と荷物を運び込むよう2人に指示した。アーチはおずおずと番犬を飼うよう進言するが、ハンナは切り捨てた。昔若い番犬を飼っていたが、勝手に家出したのでそれ以来飼わないのだと。
ハリーとアーチは協力してよく働いた。修理に保全、畑の手入れ。農園での仕事は農繁期以外にもやることは山ほどある。ハンナは家事の手をふと止めて、楽しげに働く男2人の姿を目で追った。彼女の表情は複雑だ。無理もない。突然家を出て行った夫が、また唐突に家に戻ってきたのだ。しかも物分りのよさそうな友人を連れて…。今は熱心に働いているが、いつまた気まぐれを起こして家出するとも限らない。ハンナとしては、今も愛するハリーの存在にも、またいつもハリーのそばに寄り添っているアーチの存在にも、同じように苛立たしさを覚えるのだった。
ある日の夕食後、ハンナはポーチに出てきたアーチにそれとなく水を向ける。なぜハリーと行動を共にしているのか。アーチほど経験の豊富なカウボーイなら、他にもっと良い条件で雇ってくれるところがあるだろうに。ハンナの意図を正しく理解したアーチは口ごもる。彼女は明らかに自分を敵視しているのだ。妻である彼女以上に長い時間をハリーと共に過ごしているアーチは、彼女にしてみれば、肉体関係のない浮気相手と同じだろう。ハンナは夫なしで過ごしたこれまでの間、季節ごとに雇ってきた使用人の男たちと、何度も交渉を持ったことを告白した。ハリーにすら伝えていない事実だ。ハンナは挑戦的なまなざしでアーチを見つめる。その気になれば自分は貴方とも寝ることが出来る、私はそんな女なのだと。男は自身に都合のよい理想像を女に重ねるが、女が抱える葛藤や複雑な内面を決して見ようとはしない。アーチはこれまでのハンナの心身の苦労を思い、言葉もなかった。
ハンナに頼まれ、ハリーとアーチは町まで買い物に出ることになった。ジェニーはアーチにキャンディーのお土産をねだる。彼女は、この風変わりな使用人たちにすっかり懐いている。特に好きなのは、温厚なアーチおじさんだ。ハリーが用事を済ませる間、アーチはビールをひっかけようと先に町の酒場に入った。ところがそこには、アーチたち同様日雇いの流れ者連中がとぐろを巻いていた。そのうちの1人から、ハンナの農園で働いているのかと声をかけられたアーチは嫌な予感を覚える。酩酊状態のその男は案の定、ハンナが季節ごとに雇う使用人と肉体関係を結んでいたことを揶揄し始めた。アーチは、ハンナをあばずれ呼ばわりする男を店の外につまみ出すと、間違いなく拳を腹のど真ん中にぶちこむ。そして、当惑するハリーには、このことでハンナを問い質したり責めたりしないよう諭すのだった。
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その夜、ハリーはアーチに口止めされていたにもかかわらず、我慢できずにハンナに事の真相を問うた。せっかく少し和みかけた夫婦の間の空気が、再びぴしりと凍りつく。ハンナは表情ひとつ変えることなくハリーをまっすぐ見つめると、これまで雇ってきた使用人と寝たことを明かした。男が女の身体を欲するように、女もまた男の肉体を必要とするときもある。しかし、農園を死守するために、また二度と男に傷つけられないように、たとえ彼女がどんなに気に入った男であろうと、農繁期が過ぎれば必ず農場から立ち去らせた。男は、女が身体を許すと途端に態度を変え、勝手気ままになるからだ。ハンナの告白を聞いたハリーは、怒りと自己嫌悪と悔しさで震えながら言葉を飲み込んだ。
翌朝早く、馬を駆って農園を出て行くハリーの姿があった。まだベッドの中にいたハンナは、とうとうハリーが再出奔してしまったと顔を覆う。また身を切るように孤独な夜が始まるのかと。その日、町のゴシップ好きなソレンセン夫人が突然ハンナの家を訪れた。ハリーが戻ってきたらしいという噂を確かめるためだ。夫人はハンナの家庭内事情に興味津々であることを隠しもせずに、今朝ハリーが、農園での使用人の新規雇い入れを永久に中止する旨の張り紙を町に出したことを伝えた。つまりハリーは、これから先ずっとハンナの元にいる、ということだ。ハンナは内心動揺する。てっきりハリーは、自分の身持ちの悪さに腹を立てて出て行ったとばかり思っていたのに。
アーチは、そろそろハンナと寝台を共にしてもいい頃ではないかとハリーを促す。ここに腰を落ち着けるというハリーの決意を、ハンナもわかっているだろう。アーチは、早晩ハンナの家を出て行こうと決めていた。夫婦の絆が元に戻れば、もう自分は用済みだ。ハンナのためにも、むしろここにいてはいけない人間だ。1人でのんびりカリフォルニアを目指すのも悪くないと考える。だがハリーは猛烈に反対した。今まで苦楽を共にしてきた親友を、邪険に扱うことなどできない。ハリーは、ハンナがそう仕向けたのかと、見当違いの怒りをハンナにぶつける。ハンナもとうとう、今まで我慢してきた不満をハリーに返した。結局ハリーは、アーチのように細かいことを詮索しない、男を縛り付けない類の伴侶を必要としていたに過ぎない。しかし、妻であるハンナにそんな伴侶を演じろといわれても無理な話だ。アーチを家に居候させるということは、妻よりも長い間一緒にいた浮気相手と同居してくれと頼むようなもの。妻と親友のどちらを選ぶのか、重大な選択を迫られているのはハリーの方であった。放浪の人生ときっぱり縁を切って家庭に入るか、再び家庭から逃げ出すか。
翌朝、アーチは馬上の人となり、ハンナ一家と別れを告げた。ハリーは万感の思いを胸に、躓いたらいつでもここへ帰って来いとはなむけの言葉を贈る。ハリーの長い長い青春はここで終わりを告げたのだった。その夜、ハリーは帰郷して初めてハンナのベッドに戻った。そして、ハンナの口からも、帰郷後初めて「愛している」という言葉が漏れた。ハンナでなければできない方法で、彼ら夫婦はようやく満たされたのである。

アーチが去った数日後、彼の馬を伴った怪しげな男が、切り落とされた指を持って農園に現れた。あのマクヴェイからの伝言であった。アーチは旅の途中でマクヴェイ一味に捕らえられ、彼らの町に監禁されている。ハリーが助けに来るまで、アーチの指を1本づつ切り落としていくと脅迫しているのだ。執念深いマクヴェイは、足の甲を打ち抜かれた恨みを忘れていず、ハリーをもおびき寄せてアーチ共々血祭りに上げようと目論んでいた。ハリーはすぐさまデル・ノルテに向かおうと馬の手綱を引く。血相を変えたのはハンナだ。ようやっと家族がひとつになり、つましくも幸せな生活を営んでいこうと再出発した矢先なのに、またハリーは帰る当てのない旅に出ようとしている。本当にアーチが囚われの身になったかどうかも定かではないのに、どうして家族を放っておいて赤の他人のために命を投げ出すのか。ひょっとしたらこれも、再び2人で旅立てるようにと、ハリーとアーチが仕組んだ茶番劇なのか。ハンナが泣きながら引き止めるのを振り切って、ハリーは馬に飛び乗った。これがマクヴェイの罠であることは充分承知しているが、たとえほんのわずかな可能性であろうとも、ハリーはアーチの生存に賭ける決意を固めた。
デル・ノルテでは、指を切り取られた激痛にうめくアーチが、マクヴェイの女に水を懇願していた。女は表面上マクヴェイの妻という肩書きであったが、実際は彼の奴隷である。マクヴェイは、ハリーたちのせいで今だに自力で歩けない不自由の憂さを、女に当り散らすことで晴らしていた。アーチの馬を連れたハリーが、再びデル・ノルテに姿を見せたのはそのときだ。砂埃の舞う薄汚れた町の通りには、拳銃を携えたマクヴェイの手下たちが張り付いている。多勢に無勢でハリーに勝算はなかったが、それでも彼は迷うことなく敵に撃ちかかった。一瞬のうちに、銃弾が飛び交う通りは混乱を極める。アーチも隙を突いて土牢から飛び出し、銃を奪って応戦した。だがハリーはあっという間に撃たれて道の真ん中に倒れてしまう。アーチが不自由な手で悪戦苦闘するうち、最後の力を振り絞ったハリーが親玉マクヴェイに止めを刺した。アーチは慌ててハリーの元に走り寄る。自分は生き残り、何より死んではいけない男が死にゆこうとしている。虫の息のハリーは、アーチに抱きしめてくれるように頼んだ。親友の腕に抱かれながら、しかしハリーの脳裏に浮かんだのは、あまり笑顔を見せない妻ハンナの穏やかな顔だった。
数日後、家のポーチで豆の皮むきをしていたハンナは、人の近づく気配に鋭く反応した。ハリーが出奔して以来、7年の間に身についてしまった哀しい癖だ。馬2頭と男が1人やって来る。男はハリーの馬に乗っている。ハリーだろうか?ハリーが無事に戻ってきたのか?思わず身を乗り出したハンナは、しかしその男がアーチであったことを確認すると、嗚咽を堪えながら家の中に駆け込んだ。アーチは玄関の前で立ち止まり、既にそこにはいない女主人に向かって静かに目礼すると、まっすぐ納屋に向かっていった。彼が納屋に姿を消したとき、太陽は西に沈もうとしていた。薄紫色の夕日の残照が、辺りを緩やかに包み込んでゆく。

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