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zoom RSS 海と太陽とボサノヴァ−「THIS IS BOSSA NOVA ディス・イズ・ボサノヴァ」

<<   作成日時 : 2016/03/09 22:48   >>

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ボサ:“隆起”+ノヴァ:“新しい”=ボサノヴァ、新しい波。

「THIS IS BOSSA NOVA ディス・イズ・ボサノヴァ」(2005年製作)
監督:パウロ・チアゴ Paulo Thiago
製作:グラウシア・カマルゴス
製作総指揮:ペドロ・アントニオ・パエス
脚本:パウロ・チアゴ
出演:カルロス・リラ
ホベルト・メネスカル
ジョアン・ジルベルト
アントニオ・カルロス・ジョビン
フランク・シナトラ
ジョイス
ワンダ・サー
ジョアン・ドナート
イコ・カストロ・ネヴィス
ジョニー・アルフ
ビリー・ブランコ
オスカール・カストロ・ネヴィス
レニー・アンドラーヂ
セルジオ・ヒカルド
ドゥルヴァル・フェヘイラ
パウロ・ジョビン
ケイ・リラ

1950年代の終り。ボサノヴァは、ブラジルのリオデジャネイロの海沿いの街から生まれた。

浜辺に打ち寄せる波の音、船のデッキクランクを巻き上げる音、眩しい陽光を反射する美しいリオの街並み、その中を愛しい恋人と友人と共に車で走り抜ける風が頬をなで…。ハンドルを握るのはホナルド・ボスコリ、助手席には恋人のナラ・レオン、後ろの席ではホベルト・メネスカルが名曲「小舟」を口ずさむ。ボサノヴァは、サンバやショーロといった、以前からブラジルに根付いていた生々しくも陶酔を誘うリズムとは趣を異にする。その音楽形態は、毎日の生活空間から生まれる音を丹念に拾い集める作業にも似ている。静謐なメロディーの中に、瑞々しくも輝く青春の躍動感と甘美を秘めていたのだ。“愛と微笑みと花”―これは、ボサノヴァを彩る歌詞になくてはならぬ世界観だ。まだ学生だったカルロス・リラが授業中に手慰みに書いた詩は、やがて「マリア・ニンゲン」となり、若き友人ジョアン・ジルベルトによって繊細なメロディーがつけられた。
ごく自然発生的に誕生したボサノヴァは、ブラジルの音楽シーンに新たなムーヴメントを巻き起こし、やがてポピュラー音楽の概念を変える力を持つ。その名の通り、まさしくブラジル音楽の新たな波となったのだ。1962年、ニューヨークのカーネギーホールにて行われた大規模なボサノヴァ・コンサートと、1963年に発表されたアルバム「ゲッツ/ジルベルト」のヒットによってボサノヴァは世界的認知を得る。ボサノヴァはどのように生まれ、そして今も尚根強く愛され続けているのはなぜなのか。ボサノヴァ創成期からシーンの真っ只中にいたホベルト・メネスカルとカルロス・リラが、当時を思い起こしながらその歴史を紐解いていく。
映画は、彼らの回想を軸に、ボサノヴァゆかりのアーティストへのインタビューや貴重なライブ映像、研究者たちの解説コメントで構成されている。名曲誕生秘話も披露され、ナラ・レオンやジョアン・ドナート、ジョニー・アルフ、ワンダ・サーやジョイスたちの名演と共に、彼らがボサノヴァと過ごした青春の輝ける日々が浮き彫りになっていくのだ。

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昔懐かしい紙ジャケの大きなLP盤で、父はボサノヴァのコレクションを持っていた。今はなきステレオで盤面に慎重に針を落とすと、くすんだ畳敷きの部屋に瞬時にして陽光が満ち、甘い潮風が吹き込み、彼方に真っ青な水平線が見えてくる。ふと足もとを見下ろすと、打ち寄せては返すさざ波が太陽に温められ、裸足の足を優しく撫でていく。海が好きだと言ってはうれしそうに笑っていた父の表情が、今でもはっきりと脳裏に浮んでくる。ボサノヴァのメロディとリズムは、浜辺に打ち寄せる波が作る、あのくすぐったいような無数の小さな水泡に似ている。

1950年代当時、ブラジルの若者たちは、のんびりしたリズムのサンバカンソンや農村で生まれた民謡バイヨンに飽き飽きしていた。自国に刺激的な音楽がないため、仕方なくアメリカから輸入されたジャズ・アルバムを聴いていたわけだ。中でもフランク・シナトラの人気は絶大で、若者たちはシナトラ・ファンクラブを作っていたほどだ。このファンクラブの中には、ただ音楽を輸入するだけではなく、従来のブラジル音楽と融合して新しい音楽を創造しようと考える者もいた。
その1人ジョアン・ジルベルトは、故郷バイーアから歌手を目指してリオに上京したものの、いったんは挫折。しかしアメリカ製のジャズと出会い、数年の後これをギターの弾き語りという独自のスタイルに昇華した。再びリオに姿を現した彼の若者たちに与えたインパクトは大きく、そのサウンドは“ボサノヴァ”と呼ばれるようになったのである。ナイロン弦のアコースティックギターをバチーダと呼ばれる奏法で弾きながら、チェット・ベイカーのようにささやくように歌う。詩にも従来のブラジル音楽にはなかった瑞々しい表現が多用された。美しい愛や青春、故郷への賛歌で、時に哲学的な内容を内包するようになる。こういったボサノヴァのスタイルは、ジルベルトによって確立された。彼と時代を共有する形で登場したのが、数々のボサノヴァの名曲を世に送り出した名作曲家アントニオ・カルロス・ジョビン(トム・ジョビン) だ。ジルベルトが新しい演奏形式を決定づけたのなら、その登場に刺激されたジョビンは、モダン・ブラジリアン・ポップスの音楽性の方向を決定づけた。サンバのリズムをモダンにアレンジし、滑らかな転調を多用することで楽曲に新鮮さを付加する。デリケートで洗練されたメロディーを壊さぬよう、リズムを刻むドラムにも静かなリムショット奏法が導入された。彼らは2人共にボサノヴァを代表するアーティストと認識されるようになった。

ただボサノヴァの流行は、ブラジル本国に於いては、1950年代の終りから1960年代の初めにかけての一時的な現象だと考えられており、今のところすっかり懐メロと化している有様だ。その音楽性への評価は、むしろ国境を越えて外国の方が高くなっているとも言える。このドキュメンタリー映画では、今や曖昧模糊とした過去の記憶に風化しつつあるボサノヴァの歴史について、あるいはその音楽的魅力について、改めて再認識を促すきっかけになるに違いない。

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カルロス・リラは「ロボ・ボボ」「もっとも美しいもの」「あなたと私」等の作者として知られ、ホベルト・メネスカルの十八番は「小舟」である。彼らはボサノヴァ発祥の地を再訪し、懐かしいその時代を思い起こす。ファンには垂涎の情報であるだろう、キャリア初期の知られざるエピソードも面白いのだが、なんといっても素晴らしいのは、暖かい笑顔を絶やさず語る2人の姿である。顔には深い皺が刻まれ、頭には白いものの方が多くなった今もなお、ボサノヴァを語る彼らの瞳には、少年のようなキラキラした光が宿っているのである。それを見つめるカメラもまた、2人にもそしてボサノヴァ発祥の地であるリオの街並みにも優しい。レンズの向こう側に立つパウロ・チアゴ監督の、ボサノヴァへの限りない愛情と共感がにじみ出ているようだ。それが、それぞれの遠くに去っていった青春の1 ページを、大事に手繰り寄せる行為に他ならないからだろう。

映画は、ボサノヴァという音楽形態をより分かりやすく理解するために、『リズム』『歌詞』『ハーモニー』『ビート』の4つの章に分けられ、ボサノヴァに詳しい音楽評論家などの詳しい解説を交えていく。だがそれはあくまでも補足にすぎず、この作品の本当の価値は、ボサノヴァを世に問うたキラ星のごとくのミュージシャンや作曲家たちのライブ映像だろう。

ゲッツ/ジルベルト
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スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト

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「ゲッツ/ジルベルト Getz / Gilberto」
●収録曲
1. イパネマの娘
2. ドラリセ
3. プラ・マシュカー・メウ・コラソン
4. デサフィナード
5. コルコヴァード
6. ソ・ダンソ・サンバ
7. オ・グランジ・アモール
8. ヴィヴォ・ソニャンド

私の父も大切に持っていたボサノヴァ黄金期の名盤「ゲッツ/ジルベルト」は、ジャズ界の天才サックス奏者スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトの画期的なコラボレーション作品である。このアルバムでは、ジョビンの作品が大きくフィーチャーされた。ゲッツのテナーサックス、ジルベルトのウィスパー・ボイスとギター、ジョビンのピアノ。3人の個性の違いがぶつかり合い、サウンドやメロディー全般に、非常に豊かで新鮮な広がりをもたらしている。本来繊細でシンプルな演奏形式であるボサノヴァに、自己主張の強い都会的なサックスが入り込んだことで、時折異様な緊迫感が現出する部分もある作品だが、この作品によってジルベルトはボサノヴァのマエストロに、そしてゲッツはテナー奏者の第一人者になったのだ。ボサノヴァといえば、その代表的名曲は「イパネマの娘」であるが、このアルバムではジルベルトの妻アストラッド・ジルベルトが英語でボーカルをとっている。彼女の、とてもプロフェッショナルとは呼べない迷歌唱が、なぜか奇妙にボサノヴァの雰囲気にマッチしているのだから不思議なものだ。ともあれ、このアルバムは、音楽の“クロスオーバー”の先駆けとして、ボサノヴァが時代の申し子であったことを如実に示している。

ジサフィナード?ベスト・オブ・ナラ・レオン
ユニバーサル インターナショナル
2000-07-26
ナラ・レオン

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「ベスト・オブ・ナラ・レオン The Best of Nara Leao」
日本では、セルジオ・メンデスやブラジル66、アストラッド・ジルベルトらの知名度が高く、“ボサノヴァのミューズ”と謳われるレオンの存在感はいまひとつ薄かったと聞く。しかし、この彼女の全盛期の歌唱と代表曲を集めたベスト盤を聴くにつけ、そのどこか気だるげでありながらも軽やかさを失わないボーカルは、時代を超えた瑞々しさに溢れている。この映画でも、レオンについては秘蔵のアーカイヴ映像などが多数紹介され、ミューズに捧げられている。

エリス&トム(紙ジャケット仕様)
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2009-06-17
エリス・レジーナ&アントニオ・カルロス・ジョビン

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「エリス&トム Elis & Tom」
●収録曲
1. 三月の雨
2. ポイズ・エ
3. ソ・チーニャ・ヂ・セール・コン・ヴォセ
4. モヂーニャ
5. トリスチ
6. コルコヴァード
7. オ・キ・チーニャ・ヂ・セール
8. 白と黒のポートレイト
9. もう喧嘩はしない
10. ポル・トーダ・ミーニャ・ヴィーダ
11. フォトグラフ
12. 別れのソネット
13. ばらに降る雨
14. 無意味な風景

1974年の作品。70年代を代表するボサノヴァの歌姫エリス・レジーナが、ジョビンの楽曲を歌いつくす。軽やかなアレンジが施された曲もあるが、アルバム後半で顕著になる、しっとりとしたバラード調の音楽をレジーナのドラマティックなボーカルが盛り上げていくパターンが目立つ。全部の楽曲を合わせても、38分少々しかない短い作品だが、無駄のない完璧なアレンジと演奏、歌唱の完成度の高さはすさまじい。ボサノヴァのみならず、ブラジル音楽界至高の一枚。

映画が終わると、昔の友人に久しぶりに邂逅したような、不思議な懐かしさがこみ上げてくる。それは、ボサノヴァという音楽が、青春時代の一瞬の輝きを封じ込めたものであるからだろうか。時を経てそれにそっと触れると、もう二度と戻らないはずのあの頃が、潮の香りと太陽の光を背景に脳裏にまぶしく蘇る。その圧倒的な多幸感は、しかしいくばくかの胸苦しさも伴っている。

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