Don’t steal my posts. All posts on this blog are written by me.

House of M

アクセスカウンタ

zoom RSS 「ロルカ 暗殺の丘 La Muerte en Granada」Part2

<<   作成日時 : 2013/10/16 11:57   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0

1965年、スペインではフランコ独裁政権が暗鬱たる権力を誇っていました。警察による逮捕をおそれ、スペイン国内ではロルカのことを自由に口にすることすらできない有様でした。そんな状況下、アイルランドの学者イアン・ギブソンはスペインに渡り、危険を覚悟の上で、ロルカについての綿密な調査を敢行します。その結果を「ロルカ」(イアン・ギブソン著、中央公論新社)にまとめ、発表しました。そのアメリカ版が刊行されると、プエルトリコ出身の映画監督マルコス・スリナガがすぐにギブソンにコンタクトをとってきました。

ロルカ
中央公論社
イアン ギブソン

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ

プエルトリコには、スペイン内戦の戦火を逃れてきた多くの知識人が住んでいたため、スリナガ監督も子供の頃からロルカの詩や戯曲に慣れ親しんでいたそうです。そこでギブソンのロルカの伝記と出会った彼は、早速この伝記を元にした映画を製作するため、動き始めます。
スリナガ監督と公私共に親交のあった故ラウル・ジュリア(「アダムズ・ファミリー」で知られる)、ロサーノ役を演じてもいるメキシコ系のハリウッドスター、オルモスらの尽力によって、この「ロルカ 暗殺の丘」の製作がはじまりました。ロルカ役には、この企画に心から賛同したアンディ・ガルシア。実際のロルカもオシャレな伊達男だったそうで、ラテン系ハンサムの代表格であるガルシアも、劇中では洗練された姿を見せてくれます。エレガントにピアノを爪弾くシーンも。一分の隙もない男のように見えて、しかし内心では屈辱的で理不尽な死に怯え、絶望するロルカを熱演しておりましたね。ロルカ暗殺の謎を追う、著者ギブソン自身をモデルにしたキャラクター、リカルド役にはイーサイ・モラレスが扮しました。
他にオランダ出身のジェローン・クラッベや、イタリアの名優ジャンカルロ・ジャンニーニ、ジョージ・クルーニーの従兄弟でもあるミゲル・フェラーなど、クセモノ俳優たちが集まり、この刺激的な作品を縁の下から支えることになりました。
多くのラテン系のキャスト、スタッフの情熱に支えられ、撮影は1997年に終了しました。しかし残念なことに、ラウル・ジュリアは映画の完成を目にすることなく逝去してしまいました。この作品は、ラウル・ジュリアの思い出に捧げられてもいるのです。

さてこの作品は、実在したスペインの偉大な詩人・戯曲家であったフェデリコ・ガルシア・ロルカの死の謎を、史実にフィクションを交えた意欲的な構成で解いていくというサスペンス映画です。
リカルドという青年がロルカの死を明らかにしていく過程で、ロルカ自身が象徴するスペイン内戦の悲劇の実情と、フランコ独裁政権に抑圧されていた1950年代から1960年代の当時のスペインの内情も窺い知れるというプロットになっています。

ロルカに関わった多くの人々によって徐々に明らかになる、彼の人となりと死の真相。ルネッサンス人のように様々な才能に恵まれ、無邪気で奔放な性格で同時代の数多くの芸術家や知識人に愛された彼。保守的なカトリック教国であるスペインで、同性愛者であることを公言し、古い封建的な因習に囚われたスペイン人のモラルに、作品によって新しい時代の風を吹き込もうと常に挑戦し続けたのです。これは非常に勇気ある行動であったと同時に、故郷アンダルシア地方を終生愛したロルカは、常に貧しい民衆の側にあり続けました。彼自身は裕福な地主の家に生まれたのですが、ジプシーや名もない民衆の自由のために、その魂の開放を願う数多くの詩を創作し、彼は一気にスペインを代表する詩人・戯曲家となったのです。

ところが、従来の古い因習のもとにスペイン人を抑圧しようとしたフランコ政権にとっては、ロルカの存在は、その支配の拠って立つところをおびやかすほどの影響力を持っていました。従って政府は恐怖によって民衆を弾圧しました。反体制派の人間が大量虐殺されたいきさつが、ナジャというジプシー女から語られますが、世界中に存在する独裁政権と同じように、裏切りと処刑によって大衆を支配したのですね。

最終的にロルカを死に追いやったのも、この独裁政権の恐怖でありました。その恐怖に踊らされた大衆の集団ヒステリーが、手のひらを返したようにロルカに牙をむいたのです。これがスペイン内戦の悲劇の本質でもあります。多大な恐怖にさらされた人間の良心が、あえなく絶対権力に屈してしまう悲しみ。ロルカと関係のあった人々が殺されたり、保身のために政府の側に寝返っていく中で、ロルカが故郷グラナダに踏みとどまったのは、その人間の魂の死に様を目に焼き付けるためであったのでしょうか。

しかしこの作品では、残念なことに、そういった部分があまり詳しく描写されることがありません。ラストに向けては、「ロルカを殺したのは誰か?」という具体的な謎解きに固執するあまり、テーマそのものがリカルドと父ビセンテの愛憎物語にすり替わってしまっている感もあります。ですから作品が、ロルカを通じてスペイン内戦の悲劇をあぶりだすまでに至らず、よくできたサスペンス映画の域に留まってしまったのですね。

画像

リカルドがたどりつく結論は、様々な立場にある人々が皆等しくロルカの死に責任を持ち、またその誰しも、ロルカの死によって責められるべきではないという苦々しいものです。それがあまりに胸をえぐるだけに、ちょっと残念ですね。

ですから、この作品をリカルドの通過儀礼と理解すれば、また一味違った感慨があるかもしれません。ロルカの死の謎に触れることで、彼は大人への階段をひとつ上り、父親という、彼にとっての大きな壁を乗り越えていったのです。
そもそも過去の自分に決着をつけるために、リカルドはグラナダに戻っていきました。ロルカが自らのアイデンティティを再確認するために帰郷したのと同じ理由です。ロルカの死の真相に到達した彼は、ロルカが世界のすべてであった幼く純粋であった時代に別れを告げざるを得なくなるのですね。こうして彼の幼少期は終わりを迎えたのです。


●ロルカの略歴

1898年6月5日:アンダルシア州グラナダの村、フェンテ・バケーロスの農場主であった両親のもと、長男として生まれる。
父の希望で弁護士になるべく法律の勉強をするも、彼自身は音楽、詩作、戯曲に才能を発揮し、詩の朗読や詩集の出版、戯曲の上演など活発に活動する。
1928年:詩集「ジプシー歌集」を出版。各方面から絶賛され、一躍スペイン文壇の寵児に祭り上げられる。
1929年:アメリカ合衆国を訪問。ニューヨークにも滞在する。
1930年:ウォール街での資本主義的弱肉強食世界を嫌い、ロルカはキューバに足を運ぶ。現地の芸術家と交流し、グラナダへ戻る。スペインでは第二共和制が成立。
1931年:「カンテ・ホンドの詩」を出版。
1933年:「血の婚礼」初演。大反響を呼ぶ。10月にはアルゼンチンを訪問し、かの地で熱狂的に迎えられる。
1934年:「イェルマ」初演。神への冒涜という批判をかわし、新しい時代の息吹を呼び込む上演。興行的には大成功であった。
1935年:牛に突かれて命を落とした闘牛士を悼み、詩集「イグナシオ・サンチェス・メヒーアスへの哀悼歌」を出版。
1936年:内戦の緊張が高まる中、ロルカはマドリードから故郷グラナダへ戻る。数日後、モロッコでフランコ率いる反乱軍が武装蜂起し本土へ侵攻、スペイン内戦が勃発する。ロルカは友人のファランヘ党員の家に匿われる。
1936年8月16日:友人の留守中に、当局に逮捕・連行される。
1936年8月19日:未明、グラナダ近郊の村アルファカールで、三人の反フランコ派レジスタンスと共にファランヘ党員によって銃殺された。享年38歳。

画像
 −from Wikipedia
結局、1975年にフランコ将軍が亡くなるまで、スペインではロルカの作品を自由に読むことすら出来ませんでした。現在では、マドリード市内に、ロルカの功績を称えて像が建立されています。


●ロルカの主な作品

詩集
「ジプシー歌集」
「カンテ・ホンドの詩」
戯曲
「血の婚礼」
「イェルマ」
「ベルナルダ・アルバの家」

映画「ロルカ 暗殺の丘」では、アンディ・ガルシアが英語でロルカの詩を朗読していました。しかしこれは、ぜひスペイン語の響きで聞いてみたかったです。思えば、登場人物がすべてスペイン人であるにも関わらず、彼らは劇中で英語をしゃべっているのですよね。映画がハリウッド市場を意識して製作されたものなので、仕方がない面はあるのですが、今作についてちょっと残念に思った点です。

そこで、もしロルカに興味を持たれた方がいましたら、国内でも邦訳の作品集がいくつも出ておりますので、一読されることをお勧めします。

ジプシー歌集 (平凡社ライブラリー―詩のコレクション)
平凡社
フェデリコ ガルシーア・ロルカ

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ


三大悲劇集 血の婚礼 他二篇 (岩波文庫)
岩波書店
ガルシーア ロルカ

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ



にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
「ロルカ 暗殺の丘 La Muerte en Granada」Part2 House of M/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる