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zoom RSS 幻覚は精神に宿る腫瘍である―「ヴィデオドローム Videodrome」

<<   作成日時 : 2017/03/15 09:55   >>

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1977年に「ラビッド Rabid」で劇場用長編映画デビューを果たしてから、クローネンバーグはしばらくトロント土着時代とも呼ぶべき作品を製作しています。ハリウッドのメジャースタジオの仕事ではなく、インディペンデントに独創的なホラー映画を作っていたんですね。いずれも寒々としたトロントの冬を舞台にしたもの。また、メジャーの規制がないぶん、かなり監督の趣味丸だしの、やりたい放題の作品に仕上がっています。グロテスクな描写も容赦ないものが多いですし。そういった初期の作品群の中から、クローネンバーグのコアなファンには非常に人気の高いものをひとつ選びました。「ヴィデオドローム Videodrome」です。

注意:紹介文中に、かなり露骨な描写も出てきます。気分を害される心配のある方は、お読みにならないでください。この作品はクローネンバーグのフィルモグラフィーの中でも特に、“変態度”の高いものですので。

「ヴィデオドローム Videodrome」(1982年製作)
監督:デイヴィッド・クローネンバーグ David Cronenberg
製作:クロード・エルー
製作総指揮:ピエール・デビッド、ビクター・ソルニッキ
脚本:デイヴィッド・クローネンバーグ David Cronenberg
撮影:マーク・アーウィン
特殊メイク:リック・ベイカー Rick Baker
音楽:ハワード・ショア Howard Shore
編集:ロナルド・サンダース Ronald Sanders
美術:キャロル・スパイヤー Carol Spier
出演:ジェームズ・ウッズ James Woods(マックス)
ソニア・スミッツ Sonja Smits(ビアンカ)
デボラ・ハリー Debbie Harry(ニッキー)
ピーター・ドゥヴォルスキー(ハーラン)
レス・カールソン(バリー・コンベックス)
ジャック・クレリー(オブリビアン教授)他。

トロント。新興のケーブルテレビ局、シヴィックTV(チャンネル83)では、日夜暴力とセックスを前面に押し出した番組を放送していた。野心的な若き社長マックス(ウッズ)は、さらなる視聴率アップを目論み、技術者ハーラン(ドゥヴォルスキー)がキャッチした海賊テレビ放送の電波を追う。それは陰惨な拷問の一部始終が撮影されたものだった。
マックスはテレビのトークショーにゲストとして招かれ、同じくコメンテーターとして出演していた人気DJニッキー(ハリー)と出会う。
ハーランは、例の拷問や殺人シーンばかりを延々と流す海賊電波の出所をピッツバーグだと突き止める。興味を引かれるマックス。その番組は『ヴィデオドローム』と名づけられていた。
マックスは早速ニッキーをデートに誘い、自宅に招待する。ニッキーはヴィデオドロームのテープを観たがる。マックスは躊躇するが、仕方なく一緒に観始める。するとニッキーは興奮し始め、自分もヴィデオドロームに出たいと言い出す。SM趣味があるらしい。愛し合う二人。
翌日、ポルノヴィデオ業者のマーシャが自作ヴィデオを売り込みに来た。彼女の作品には食指の全く動かぬマックスだったが、ヴィデオドロームの正体の調査を依頼する。その晩、ニッキーは明日からピッツバーグに行くと宣言して、マックスをあわてさせる。
マーシャからヴィデオドロームの情報を得たマックス。ヴィデオドロームの中で行われている行為は、すべて本物だとマーシャは言う。オブリビアン教授(クレリー)という男の危険な哲学に基づいて、本物のスナッフフィルムが作られているという。それがヴィデオドロームだ。
マックスはマーシャの警告を振り切って、オブリビアン教授に会いに行く。教授は、マックスが先日出演したトークショーにオブザーバーとして出演していたのだ。教授の自宅は、浮浪者のために解放されていた。彼らに食事や娯楽(テレビ)を提供する施設だ。そこを取り仕切る教授の娘ビアンカ(スミッツ)にヴィデオドロームのことを問いただすマックス。ビアンカはしらを切るが、翌日マックスの元へ1本のヴィデオが届けられた。
ヴィデオの中で、教授は演説する。『テレビのブラウン管は人の心の網膜であり、テレビで見るものが人の体験となる。つまりテレビこそが真の現実なのだ。ヴィデオドロームは私の見た幻覚そのもの。これによって北米の人間は精神の闘いを促されるだろう』
およそ信じがたい内容だが、最後に教授はヴィデオの中で絞殺される。手を下した男が覆面を取ると、なんとそれはニッキーであった。彼女は、マックスにも早くヴィデオドロームの世界に来るように懇願する。すると、テレビが生き物のように蠢き始め、画面に映るニッキーの唇が誘う。マックスは魅入られるように画面の中に頭を入れる。マックス自身も幻覚の世界に足を踏み入れているのだ。
マックスはビアンカを訪ねる。彼女によると、ヴィデオドロームは観る者に幻覚を見せるという。ヴィデオドロームの内容は様々だが、精神に与えられる危害は同じ。脳腫瘍ができるのだ。ビアンカは、教授がヴィデオドロームを悪用しようとしたかつてのパートナーに殺害されたことを話す。そしてマックスに数本のヴィデオを渡した。
その新しいヴィデオドロームを観るうちに、マックスの腹に女陰のような裂け目ができる。マックスはパニックになり、持っていた拳銃を裂け目に突っ込んでしまう。幻覚が覚めると、傷はなくなっていた。
マックスはバリー・コンベックスと名乗る男に呼び出される。彼は表向き大手の眼鏡屋だが、極秘裏にヴィデオドロームを完成させ、テレビ局から北米に向けて大々的に放映したいのだと説明した。そこでヴィデオドロームの幻覚を分析するため、マックスに手を組もうと申し出たのだ。コンベックスはマックスに装置を取り付ける。装置がマックスの見る幻覚を記憶するのだという。幻覚が始まる…ニッキーが現れ、彼に鞭を渡す。事情がわからぬまま、鞭を振り下ろすマックス。周りはかつて見た海賊電波の拷問部屋と同じ。目の前のテレビを鞭打つと画面に映る女が悲鳴をあげる。
自宅のベッドで目覚めるマックス。彼にはどこからどこまでが幻覚なのか、もはやわからなくなっている。ふと隣を見ると、拘束された女が鞭打ちの末死んでいた。マーシャだった。マックスはパニックに陥り、ハーランに助けを求める。ところがベッドは空っぽ。文句を言うハーランを会社のラボに向かわせ、マックスも後を追った。
ラボでマックスはコンベックスに再会する。実はハーランとコンベックスはグルで、マックスをヴィデオドロームの世界に引き込むため、ハーランがわざとヴィデオドロームを見せていたのだ。ハーランは言う。「世界は危機に瀕しているのに、北米の奴らは目先の快楽しか追っていない。だから北米の精神はどんどん弱くなってるんだ」
そのために、ヴィデオドロームをマックスのテレビ局から放送し、彼らを洗脳する。テレビ局を乗っ取るため、邪魔者を消したい。
マックスの腹にできる傷はヴィデオドロームを飲み込むための挿入口になっているのだ。コンベックスはマックスの『挿入口』に新たなヴィデオを入れ、会社の重役を殺すよう命令する。
マックスはヴィデオドロームの命ずる声に抗えない。腹の中からいつか入れた拳銃を取り出す。拳銃から金属の管が生えてきたかと思うと、それはマックスの腕の中にまで入り込み、拳銃とマックスの手は完全に一体化してしまった。彼はふらふらと重役たちの待つ部屋へ向かうと、彼らを撃ち殺した。そして内なるヴィデオドロームの声が次のターゲットはビアンカだと言う。マックスはビアンカの元へと向かった。
ビアンカは、コンベックスこそ教授を裏切り殺したパートナーだと告げる。そして、ニッキーもすでにヴィデオドロームの中で殺されているとも。さらに逆にマックスに幻覚を見せる。テレビの画面が人間の肌のようになり、内側から拳銃が突き出してきた。それはマックスに向かって発砲される。血を流し、倒れるマックス。ビアンカの声がひびく。「あなたの肉体は変化を遂げ、いまやヴィデオと一体化したヴィデオ人間となった。あなたはヴィデオの操り人形。私の命じるままにヴィデオドロームに死をもたらせ。新たに生まれた新人間よ、永遠なれ!」
ビアンカの声に洗脳され、マックスは真の敵、コンベックスの元へと急ぐ。彼の店は春の新作の見本市を行うため、慌しかった。店の奥でハーランを見つけたマックス。ハーランは新たな使命を彼に与えるため、再びマックスの挿入口にヴィデオドロームを入れる。が、幻覚の力でマックスは逆にハーランの手を食いちぎり、爆死させる。見本市にやってきたマックス。招待客の前でしゃべるコンベックスに向けて発砲した。コンベックスの肉体は内側から裂け、内臓が裏返る。
4人の人間を殺したマックスは、港の廃船にたどりついた。途方にくれるマックス。ふと見ると目の前にテレビがある。画面にはニッキーがいた。ニッキーは彼に諭す。「あなたの肉体の変化は完全ではない。新たな段階に進むために、古い肉体を捨てなければ。死は怖くない。早く私のところへ来て…」そして画面にはマックスが現れ、拳銃で頭を打ち抜いた。
マックスはその通りに拳銃で頭を打ち抜いた。

「新人間よ永遠なれ」


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2009-01-22

ユーザレビュー:
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暴力がテレビの世界にあふれ、それを観続けることで青少年の精神に悪い影響が出るという論争は今に始まったことではありません。映像がどれほど人間の感覚に大きな影響を与えるかということは、科学的な実証を待たなくても、日々私達が実感していることです。
現実世界では内戦やテロが絶えず、暴力沙汰や殺人事件も毎日のように起こってますよね。それを次の瞬間にはテレビの画面を通じて目にする私達。テレビのこちら側で、ひとごとのように事件を見聞きするうちに、強い刺激に対してすっかり感覚が麻痺してしまうといった恐怖感は、どなたにも覚えがあるのではないでしょうか。

画像

この作品は、そういった映像と人間の精神との危うい関係を題材にとりながら、いつものクローネンバーグ哲学を展開しているように見えますね。いわく、テクノロジーによる肉体の変容を、人間の新たなステージととらえることの愚かしさ。
しかし、そこここで監督自身の思想も説明されています。たとえばヴィデオドロームという、幻覚によって人間性を変えてしまうほど危険なものを作ったオブリビアン教授の言葉。
彼はテレビにこそ真実があると断言します。今目にしている、私達が現実と信じるものは、見方によっていかようにも認識を捻じ曲げることができるのだから、と。確かに妄想とかあるいは幻覚と呼ばれるものは、実際に自分が経験している現実の裏返しだという考え方もできます。
なにを現実だと信じればいいのかわからなくなってくる恐ろしさ。教授の言葉は絵空事ではなく、簡単に情報が操作されてしまう現在の世相への皮肉ととれないこともありません。
教授はために、未来はテクノロジーを操る人間のものになると信じたわけです。結局クローネンバーグの作品で描かれるマッド・サイエンティストたちの末路がそうであるように、教授もテクノロジーを過信し、人間をテクノロジーに合わせて変容させるべきだと信じた挙句、自滅するわけですね。
教授を裏切り、世界じゅうの人間を洗脳するために、ヴィデオドロームを利用しようとするコンベックス達の方が、まだ理解しやすい存在かも知れません。彼らも根底には、一種の狂信的哲学―堕落しきった人間の精神にカツをれるのだ―があるので、それを昨今の頻発するテロの背景と照らし合わせてみると、興味深いかもしれません。

マックスの立場は、純粋な好奇心から禁断の科学の領域に巻き込まれてしまった、被害者であろうと思われます。彼は幻覚に犯され、また幻覚に操られもする人間になってしまいます。劇中では『ヴィデオ人間』と呼ばれますが、社会が複雑化し、人間の精神の境界が危うくなっている現在では、彼のような人間は『精神に重大な疾患を抱えた者』と認識されて大勢いるはずです。最終的に彼はヴィデオドロームの命ずるまま、殺人を犯します。第三者から見れば、それは『神の声を聞いて』殺人を繰り返すような、猟奇殺人者と全く同じですよね。

テクノロジーによって肉体の変革した彼をいくら『新人間』と認めても、その新しい人間の行き着く先が結局犬死しかないという皮肉。これは、好奇心に負けて過ぎたる科学に足を踏み入れたマックスを愚かと笑うべきなのでしょうか。それとも、マックスは多くの人間の―煩悩や私欲の誘惑に弱い人間の―象徴なのだととらえて、彼の姿の中に自分を見出し戦慄するべきなのでしょうか。


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